実験で解き明かす住宅市場に潜む人種差別

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2023.03.28
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Christensen, P. and Timmins, C.(2022) “Sorting or Steering: The Effects of Housing Discrimination on Neighborhood Choice,” Journal of Political Economy, 130(8): 2110-2163.

山岸敦

はじめに

多くの読者の方が、一度は不動産屋に足を運び賃貸物件の契約に臨んだことがあるだろう。お店に入って希望の条件や現在興味を持っている物件を伝えると、その情報を参考に不動産屋の担当者からいくつかの物件が提案され、そこから内見などを経てより細かな検討をしたうえで、賃貸契約の交渉へと入っていくのが一般的な流れである。

本稿で紹介する論文 (Christensen and Timmins 2022) は、このごく一般的な住まい探しの流れに潜む差別を分析している。とりわけ、米国において「不動産屋で興味のある物件を伝え、それをもとに担当者からいくつか物件の提案を受ける」際の差別に着目する。たとえば、本当は貸すことが可能な物件であっても、担当者はマイノリティに対しては「今は紹介できない」などと拒絶するかもしれない。これはおそらく最も露骨な差別であるが、もう少し曖昧な差別として、マイノリティに対してはあまり条件がよくない物件しか紹介しないといった差別も考えられるだろう。

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