(第6回)エネルギー危機回避に向けた欧州復興基金の役割拡大(田中理)

ヨーロッパの直面するエネルギー危機| 2023.05.11
2022 年 2 月、ロシアがウクライナに侵攻したことにより、世界的にエネルギー価格が上昇する事態となりましたが、その中でも最も深刻な影響を受けているのがヨーロッパです。エネルギー危機に直面し大混乱に陥っているヨーロッパは、今後も脱炭素化・EV化を進めていくことができるのでしょうか。また深刻なインフレや財政・金融の問題にも注目が集まります。4名の EU 研究者が読み解いていきます。

(全 10 回の予定)

資源高による経済的な打撃が続く欧州諸国

2022 年の欧州を襲った資源価格の高騰は、冬場のガス不足が回避されたこと、欧州連合 (EU) がガス価格の上限設定で合意したことなどを受け、沈静化の動きが広がっている。新型コロナウイルスの世界的な流行 (パンデミック) やロシアによるウクライナ侵攻に起因した供給制約を受け、2022 年前半に 100 ドル/バレル超で推移した原油価格は 80 ドル/バレル前後に下落したほか、2022 年夏に一時 300 ユーロ/MwH を突破した欧州の天然ガスの指標価格は、2023 年春現在、40 ユーロ/MwH 台で推移している (図表 1)。資源価格の上昇一服と前年比でみたエネルギー料金の押し上げ一巡により、ユーロ圏の消費者物価も 2022 年 10 月に前年比 $+10.6\%$ で過去最高を更新した後はピークアウトしている。

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田中理(たなか・おさむ)
第一生命経済研究所主席エコノミスト
1997 年慶應義塾大学法学部卒、日本総合研究所入社、調査部にて米国経済・金融市場を担当。その間、日本経済研究センターに出向。2001年モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現:モルガン・スタンレー MUFG 証券) 入社、株式調査部にて日本経済担当エコノミスト。海外大学院留学 (バージニア大学経済学修士・統計学修士) を経て、2008 年クレディ・スイス証券入社、株式調査部にて日本株担当ストラテジスト。2009 年第一生命経済研究所入社、2012 年より現職。2015〜2020 年多摩大学非常勤講師。
共著に『デジタル国家ウクライナはロシアに勝利するか』(日経 BP)、『コロナ禍と世界経済』(きんざい)、『EUは危機を超えられるか---統合と分裂の相克』(NTT出版)。