(第7回)2035 年 EU 新車ゼロエミッション規則成立、今後の焦点(橋本択摩)

ヨーロッパの直面するエネルギー危機| 2023.06.12
2022 年 2 月、ロシアがウクライナに侵攻したことにより、世界的にエネルギー価格が上昇する事態となりましたが、その中でも最も深刻な影響を受けているのがヨーロッパです。エネルギー危機に直面し大混乱に陥っているヨーロッパは、今後も脱炭素化・EV化を進めていくことができるのでしょうか。また深刻なインフレや財政・金融の問題にも注目が集まります。4名の EU 研究者が読み解いていきます。

(全 10 回の予定)

$\def\COii{\text{CO}_2}$

EU で 2035 年までにすべての新車をゼロエミッションに義務付ける乗用車・小型商用車 $\COii$ 排出量規則が 4 月 25 日に EU 官報に掲載され、20 日後の 5 月 15 日に施行された。EU27 加盟国政府の閣僚からなる EU 理事会は 3 月 28 日、本規則案を正式に採択し、既に 2 月に採択済みの欧州議会とともに、4 月 19 日に共同署名を行っている (図表 1)。

EU 理事会での採択を前にした 3 月 24 日、欧州委員会は e-fuel 使用を認める内容の「委任細則」を 2023 年秋に提案することでドイツと合意した。EU は 2035 年以降、内燃機関 (ICE) 搭載車の販売を EU 域内で実質禁止にする方向で議論が進められてきたが、今回ドイツの要望を受け入れ、2035 年以降も e-fuel のみを条件に ICE 搭載車の販売を容認する方針に大きく舵を切ったとして、特に日本のメディアでは報じている。しかし、図表 2 のとおり本規則案自体は 2022 年 10 月の EU 理事会、欧州議会、欧州委員会の EU 主要 3 機関による三者合意案から修正されておらず、2035 年のゼロエミッション目標はそのままである1)。今回の決定が EU 政策の大きな転換とは言い難い側面があることには注意が必要である。以下ポイントを絞り、説明する。

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脚注   [ + ]


橋本択摩(はしもとたくま)
国際経済研究所上席研究員
2000 年東京大学経済学部卒、第一生命保険入社。第一生命経済研究所、財務省財務総合政策研究所、国際金融情報センター・ブラッセル事務所への出向等を経験。2013 年より三井物産戦略研究所、ベネルックス三井物産 (ブリュッセル駐在)、三菱総合研究所を経て、2021 年 9 月より現職。EU 産業政策、環境・エネルギー政策を中心に調査・分析を実施。ベルギー駐在通算 7 年。