企画趣旨(髙橋祐介)/戦争と租税――租税の役割、性質、限界事例(佐藤英明)(特集:いまこそ知りたい「税法」入門)

特集から(法学セミナー)| 2023.08.14
毎月、月刊「法学セミナー」より、特集の一部をご紹介します。

(毎月中旬更新予定)

◆この記事は「法学セミナー」824号(2023年9月号)に掲載されているものです。◆

特集:いまこそ知りたい「税法」入門

税にはどのような種類や仕組みがあり、どう使われているか。個人の生活や企業活動、歴史的な視点から多角的に紹介する税法入門。

――編集部

企画趣旨(髙橋祐介)

私たちの生活は税に囲まれている。

読売新聞のデータベース・ヨミダス歴史館で、最近1年(2022年7月1日~23年6月30日)を対象に「税」という文言を検索したら、10,192件ヒットした。朝日新聞クロスサーチで、デジタル版を含む同新聞を検索すると7,058件該当し、日経テレコンで日経各紙を対象として検索すれば2,375件であった(経済紙だが意外と少ない)。税という文言だけでも、日常にあふれている。

定価:税込 1,540円(本体価格 1,400円)

税が国や地方自治体の活動原資となり、私たちの生活を支えていることは、学校などで学んでいるだろう。とはいえ、税をなるべく払いたくない、できれば避けたいと思うこともあるだろう。

おりしも、今年6月30日に、内閣総理大臣の諮問に応じて租税制度の基本的な事柄を調査審議し、意見を述べる税制調査会(政府税制調査会)が、約4年ぶりに答申を取りまとめた。各種のニュースでも報じられていたので、ご存じの皆さんも多いと思う。租税の基本的考え方、制度の変遷、経済社会の変化を踏まえ、様々な税のあり方を論じる261頁もの答申は一読の価値があるが、しかし1人で読むにはなかなか敷居が高い。本特集は、政府税制調査会答申が世間の耳目を集めた(と思う)このタイミングで、ぜひ租税やそれに関するルールである税法に興味を持ってもらうために編まれたものである。

税は、ルールの範囲内であれば、それを払わないよう工夫するのは当然に許される。本特集は、皆さんの生活、大きくいえば皆さんの人生に即して、どの状況でどのような税がかかるのかをザッとお示ししている。ぜひ税を払わない合法的な工夫を知るヒントとして頂きたい。法学系教育雑誌での租税法に関する特集はすでにあるが、本特集はこのようなヒント付与を趣旨とする点で、おそらく本邦初の試みである。

もっとも、本特集の各論文を読んで、納得したり、疑問を持ったり、笑ったり、怒ったり、果ては悲しくなったり、皆さんはいろいろな感想や意見を持つと思う。それこそが本特集のもう1つの趣旨にして本当のねらいである。調べたり、友人知人と議論してみたりしてほしい(ただし特にネット情報は怪しげなものもあるので注意)。税に詳しい大学の先生や弁護士、税理士などの先生と話をすることもぜひお勧めしたい。

税法に興味を持ったら、本特集各論文を執筆された先生の本や論文を読んでもらってもよい。例えば本特集の佐藤英明教授が執筆し、弘文堂から出版されている『プレップ租税法〔第4版〕』(2021年)や『スタンダード所得税法〔第3版〕』(2022年)などは、業界内でも評価が高い。

国家の非常時である戦争時には、日常を取り巻く税も異常であったが、しかしそれでもなおある種の合理性を持っていた(佐藤論文)。他方、私たちの暮らす現在の日本は、戦時の税制とは異なるそれを持つ。まずは老後までを対象に、どのタイミングで、どのような税がかかるのかを確認し(倉見論文)、次に私たちの働くときの税をみてみよう(田中論文)。さらに、税は家族の形成やジェンダーにも影響がある(加藤論文)。もし富裕層になったら(既になっている人もいるかもしれないが)、税負担はどうなるのか(辻論文)。さらにスマホが手放せなくなった昨今、社会や経済のデジタル化が、税にどのような影響を与えるのか(安井論文)。税法は一層細々とし、合法的かつ網羅的に税負担を減らすのも一苦労である。

税法に対する喜怒哀楽の感情が皆さんに渦巻けば、本特集は成功である。

(たかはし・ゆうすけ)

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