教員の労働時間を考える(西谷敏)
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。
(毎月下旬更新予定)
◆この記事は「法律時報」95巻10号(2023年9月号)に掲載されているものです。◆
1 限界に達した長時間労働とその影響
教員の長時間労働は長年問題視されてきたが、一向に解決しない。文部科学省が2023年4月28日に発表した「2022年度の教員勤務実態調査(2022年度)(速報値)」によると、教員の労働時間は6年前に比べて若干短縮されたとはいえ、国が定めた所定外労働の基準(月45時間)を超える教員が中学校で77.1%、小学校で64.5%にのぼり、「過労死ライン」といわれる月80時間の残業に相当する可能性がある教員は、中学校で36.6%、小学校で14.2%であったという(上記調査および同日のNHK報道による)。過労死・過労自殺が多発し、メンタル不全を起こす教員が後を絶たない実態が改めて統計的に裏づけられたことになる。
こうした長時間労働を主たる要因として、教員志望者は急速に減少し(教員採用試験の倍率は2000年の13.3倍から2021年の3.9倍へ低下)、教員資格をもっていても教職に就かない潜在教員が100万人にものぼり、深刻な教員不足が生じている。文科省が2021年に行った初の調査では全国の公立学校で2558人が不足し、さらに2023年4月段階でこの1年間に状況が悪化したと回答した教育委員会が43%にのぼったという(2023年6月21日朝日新聞)。穴のあいたポストは臨時的任用教員や常勤的非常勤(!)でカバーし、それも無理な場合、教頭が臨時で担任を勤めたり、教員が持ちコマを増やしたりして対応している。
異常な長時間労働の犠牲者は教員だけではない。2020年にユニセフが公表した報告書によれば、日本の子ども達の幸福度は先進38カ国中20位、さらに精神的幸福度については38カ国中37位であったという。学校にはいじめが蔓延し、子どもの自殺率が高く、不登校の子も多い。こうした子どもの状態は、教員が過重労働のために一人ひとりの子どもと向き合う余裕がないことと無関係のはずはない。
2 意識され始めた危機
教員の長時間労働の解決は、あらゆる意味で一刻の猶予も許さない課題となっている。教員の労働時間などを検討するために文科省に有識者会議がもうけられ、2023年4月13日に「論点整理」を発表した。自民党は特命委員会をもうけて改善提案をし、2023年6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023」(いわゆる骨太の方針)も、相当の字数を使って教員の処遇の抜本的な見直しをうたっている。文科省が先日発表した「2022年度文部科学白書」も、「教師の長時間労働の是正は待ったなし」(83頁)と述べている。
骨太の方針では、2024年度中に給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)改正案の国会提出を検討するとしており、教員の処遇問題の一つの焦点が給特法にあることは共通の認識になりつつある。しかし、この法律のどこがどのように問題なのかを明確にしないと、適切な解決は得られない。