『法廷弁護における説得技術─法廷できわだつ弁護士になるために』(著:ブライアン・K・ジョンソン、マーシャ・ハンター/訳:大森景一・川﨑拓也・東向有紀・白井淳平)

一冊散策| 2023.08.31
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

刊行によせて

優れた法律家には様々なタイプがありますが、共通しているのは、アイデアの本質を捉え、そのアイデアの本質的な強さや説得力を、他者に納得させる方法で表現する力を持っていることです。説得力は必要不可欠なものであり、弁護士として成功し、実りあるキャリアを築きたいと願う人にとって、この能力を高めることは非常に重要です。

これは決して鋭い洞察ではありません。しかし、25年以上にわたって弁護士に法廷弁護を教えてきた私から言わせれば、法廷弁護教育の世界では2つのことが大きく変わってきています。1つは、科学的な厳密さと個人の個性を融合させることで、人を説得することができると理解されてきたこと、もう1つは、その技術を様々な場面(陪審裁判はそのうちの1つにすぎません)で発揮することの必要性を認識したことです。

投資

『法廷弁護における説得技術』定価:税込 3,630円(本体価格 3,300円)

30年前には、弁護士がキャリアの初期に法廷に挑む機会は、今よりもはるかに多くありました。私も駆け出しの法律家のころ、連邦事件の陪審裁判に1人だけで挑みました。毎日ではないにしても、若い弁護士が法律事務所の経営者になるかなり前の段階で、法廷で多くの経験を積むことは珍しくありませんでした。現在では、法律家が法廷に立つ機会は、キャリアのどの段階においても非常に少なくなっており、法律事務所では、若い勤務弁護士に、有料で依頼される事件では得られない裁判経験をプロボノ活動で積ませるために、公益フェローシップ1)を与えるということが日常的に行われています。また、裁判になるケースが少ないため2)、弁護士費用は常に高くなり、クライアントは経験豊富な法廷弁護士に注目するようになります。弁護士にとっては、熟練した説得力のある法廷弁護人であることが、これまで以上に重要になっていますが、それを仕事で学ぶ機会はますます少なくなっているのです。

 

平凡と非凡の違いは、ほんの少しの努力の差でしかない。
――ジミー・ジョンソン(アメリカンフットボールの解説者、元選手、元コーチ、元会社役員)

人前で考えたり話したりする能力を生まれつき持っている人はほとんどいませんし、法廷で経験を積む機会も少なくなっています。このような状況では、実務を担当する者にとっては、必要なトレーニングをしていることが重要であり、リーダーにとっては、実務を担当する法律家が技術を向上させる方法を確保することが重要です。これは、可能な限り最高のクライアントサービスを提供するために必要なことですが、最高の弁護士を確保するために必要なことでもあります。最高の弁護士はクライアントのために常にスキルを向上させ、あらゆる優位性を獲得しようとする完璧主義者です。

私たちの雇う弁護士に最高のトレーニングを提供することで、優れた勤務弁護士を、私たちの卓越した伝統を守るパートナーにすることができるのです。最後の一件と考えて勝負するビジネスの世界では、どのような案件にも最高のスタッフで臨まなければ務まりません。私たちは、どんな案件でもベストな人材を確保し、ハードルを常に上げていかなければなりません。モルガン・ルイスでは、常に卓越し確実に向上する必要性を感じているため、ブライアン・ジョンソンとマーシャ・ハンターを10年以上にわたって私たちの弁護士の法廷弁護技術――宣誓供述録取、申立て、裁判、さらには依頼者や同僚を前にしたスピーチに至るまで――の向上にあたらせてきました。

これは私たちだけではありません。ブライアンとマーシャは、国内の何十ものプログラムをサポートしています。中でも、彼らは司法省連邦弁護技術センターで新任連邦検事補のトレーニングを担当しています。そして1988年から彼らは、全米随一の弁護技術トレーニングプログラムであるNITAにて、全米法廷弁護技術セッションを始動しました。

ブライアンとマーシャの1週間のプログラムに参加することは、参加者の人生において、キャリアを変える出来事です。彼らが与えてくれるスキルやツールはずっと身についていきますし、私は誰が彼らの指導を受けたことがあるかをよく言いあてることができます。しかし、誰もがそのような贅沢な時間を過ごせるわけではありません。この本は、自分の技術に投資したいけれど、対面式やオンラインのトレーニングプログラムを利用できない人のために、そのギャップを埋めるものなのです。

技術の背後にある科学

どんな愚か者でも知ることはできる。重要なのは理解することだ。
――アルバート・アインシュタイン

効果的な法廷弁護活動は、創造的な技術であると同時に科学でもあります。ブライアンとマーシャは、その技術の背後にある科学を理解するために、その必要な要素を解明することに何十年も費やしてきました。この本では、まず本物であることの重要性が語られています。ブライアンとマーシャは、あなたの誠意を相手が信じなければ、相手を説得することはできないことを知っています。陪審員の前で話すとき、あるいは証人に反対尋問をするときに、本物であることあるいは自然であることは、言うは易く行うは難しです。しかし、事実認定者を説得するためには重要なことなのです。

ブライアンとマーシャは、自然であるだけでなく、そう認識されるための本物のコミュニケーションを支援するべく、科学的な手法を用いて、あなただけのスタイルという創造的な技術を解き明かします。彼らは、人前で話しているときに自分の体に何が起こっているのかを理解することに重点をおき、それを意識的にコントロールできるようにしてくれます。本書では、弁論の最中に、なぜあなたが早口になってしまうのか、なぜ「あのー」を15回も言ってしまうのかを科学的に説明しています。この本では、さらに一歩踏み込んで、ゆっくり話すために、そして「思考中のノイズ」をなくすために正確に何をすべきか・・・・・・・・・を説明しています。

私のスタイルの1つに、難解な概念を、陪審員がすぐに理解できるような人間的な価値観に変換するために、例え話を用いるということがあります。だからこそ、本書で教えられているスキルを適用するための、実践的で役立つヒントを伝える様々なケーススタディや例え話を読むことは、大きな喜びでした。ブライアンとマーシャは、身体、脳、声をコントロールするための「行動儀式」の活用に焦点を当て、72歳の退職者であるアンベリー医師がバスケットボールのコートで2750回連続してフリースローを一度も失敗せずに決めた話を紹介しています。どうやって? アンベリー医師は、シュートを打つ前の心身の儀式によって、自分をコントロールし、一貫性を保ったと言います。ブライアンとマーシャは、一貫した「試合前」の儀式が法廷でも同じような成功をもたらすことを説明し、私たちが自分自身の身体的儀式を作り、それに磨きをかけられるようにしてくれます。そうすることにより、身体の動かし方や手を使ったジェスチャーの方法が自然にできるようになり、言いたいことやどのように言いたいことを言うかに集中することができるようになります。

このような実例と実践的で詳細な解決策により、具体的な問題を解決することができ、駆け出しの勤務弁護士から、さらなる伸びしろを探す20年目のベテラン検事まで、自分のスタイルに合わせてカスタマイズが可能です。

練習が達人を作る

人は、物事を繰り返す存在である。つまり、優秀さとは、1回の行動そのものによって得られるものではなく、習慣により得られるものである。
――アリストテレス

つまるところ、法廷弁護はしばしば実用的な技術なのです。人は自分が理解できるものを支持するものであり、公正さと誠実さという基本的な概念が法律の実践を後押しします。ブライアンとマーシャは、もちろんこのことを理解しており、彼らの本は実用的な助言に優れています。

練習すれば完璧になるというのは普遍的な真理ですが、本書の最後の2つの章では、必要な技術だけでなく、その技術をどのように練習するか(意識的な呼吸法を考えてみてください)についても詳しく説明し、実際の法廷弁護の場面で適用する方法を詳しく説明しています。その中には、声が小さすぎる、じっとしていられない、主尋問で答えの後に「なるほど」と言ってしまうなどの悪い癖がある人が試すべき練習も含まれています。また、この本は、何千人もの多忙なAタイプ3)の専門家を訓練してきた経験から生まれた実用主義に基づいて構成されています。そして、本書の各章の終わりにはまとめがあり、付録は何度も参照することができる記憶喚起に役立つものになっています。

この本は、熟練した法廷弁護士になりたいと本当に願う人のための道具として欠かせないものです。この本は、あなたと、あなたのキャリアと、あなたの依頼者への投資です。ブライアンとマーシャのトレーニングに直接参加できない場合は、この本が次善の策となります。そして、あなたがすでにそのトレーニングの恩恵を受けた幸運な方の1人であれば、この本は素晴らしい復習の役割を果たすでしょう。

モルガン・ルイス 代表
ジャミ・ウィンツ・マキーオン

序文

弁護士は、様々な状況で、異なる伝え方で、説得的に弁護することを求められます。ある法廷弁護士は、陪審裁判において、市民を情熱的に説得するかもしれません。まったく同じ法廷で、職業裁判官に対して証拠排除の申立てをするときには、その弁護士は、まったく異なる熱量そして口調で、説得するかもしれません。そしてまた、陪審裁判中、陪審に聞こえないところで、裁判官や検察官とひそひそと議論をするときは、また異なる熱量や音量で説得する手法をとるかもしれません。伝え方は状況に応じて変わるものです。

裁判官裁判では少し異なる面があります。芝居じみたことはする必要がありません。職業裁判官は、陪審を説得するときに必要とされるような演技は求めていませんし、必要ともしていません。だからこそ、弁護士は、その現実に合わせるのです。

申立ての場面4)では、なおさら異なります。申立てにおいて、裁判官によっては、準備したプレゼンテーションを進められる場面と、裁判官からの質問に答える形での臨機応変な議論をしなければならない場面とを、常に行ったり来たりすることが求められます。もし、それが「ロケットドケット」事案5)であれば、スピードと効率性が本質的な要素であり、弁護士はスピードと効率性を重視して手続を進めるようにします。

複数あるいは1人の裁判官で主宰する控訴審裁判所の前で、控訴審の弁護人が弁論をする場合も同様です。そのような場合のアプローチは、裁判官席に座る裁判官の傾向によるところが大きくなります。すなわち、裁判官が、情熱的か冷静か、しばしば質問をしてくるのか、邪魔することなく準備したプレゼンテーションをさせてくれるのか、といったことです。時間制限は、あるかもしれませんし、ないかもしれません。弁護士は、相手に合わせるだけです。

仲裁手続における弁護活動は、上で述べたものとはまったく異なります。場面は会議室で、当事者は座ったままであり、手続的規制は明らかに緩やかです。別の対応が必要となります。

この本の著者たちは、これらの場面で取るべき行動が、どれだけ異なるかを理解しています。私たちは、この本が、できる限り多くの弁護士の助けとなってほしいと願っています。第1版では、法廷弁護士のための、法廷におけるコミュニケーションスキルに重きを置きました。第2版では、その範囲を陪審裁判、裁判官裁判、模擬裁判、申立実務、控訴審そして仲裁手続を含む範囲に広げました。

この本の守備範囲を広げたことによって、私たちはある問題につきあたりました。それは、弁護士の話を聞く多様な人々を、どのように表現するかということです。私たちは、彼らを繰り返し列記しないことにしました。かわりに、単純にそれらを含む概念である「聞き手」と呼ぶことにしました。私たちは、読者の皆さんがこの意図を理解してくださり、この本で与えられたテクニックを、皆さんの置かれた状況において、最も適切な聞き手や場所に読みかえて用いていただけると信じています。

加えて、30年以上もの間、もっぱらこの仕事をしてきた結果、私たちは、多くの弁護士が、本能的に、熱心な反対意見を述べることも知っています。彼らの仕事は、与えられた如何なる考え方に対しても、ウィークポイントを見つけることにあります。たとえば、「いつも・・・そうするわけじゃないよね」とか「あらゆる・・・・状況で使えるテクニックではないよね」という類いのものです。私たちはこう言いたいと思います。異議は認めましょう、弁護人。理解してほしいのは、私たちの教えるテクニックの1つひとつが、すべての弁護士が、あらゆる場面でいつでも適用できるものであると主張しているのではないということです。シェイクスピアが、著書の中で、完璧な解を述べています。「汝自身の判断に従え」と。私たちはその考え方に賛成です。弁護技術については、1つの服が全員にぴったり合うわけではないし、どんな場面でもぴったり合うわけでもないのです。

すべての話し手が磨く必要のある感覚があります。そのうちの1つが、その特定の状況に適応する能力です。あなたが仕事をする場面で、あなたにとってうまくいく選択をしてください。あなたの目標はThe Articulate Advocate、つまり、わかりやすく、明瞭な、法廷できわだつ弁護士になることです――常に、そしてあらゆる面で。

著者について

ブライアン・K・ジョンソン
BRIAN K. JOHNSON

ブライアン・K・ジョンソンは、毎年何百人もの弁護士たちに対し、コミュニケーション能力と説得力を改善するための指導を行っています。彼は、個人個人に合わせたすぐに役立つ改善提案によって、話し手が自然にジェスチャーし、リスクの高い状況でも明瞭に考えられるようになる手助けをしています。彼は、最も優秀な弁護士たちが激しく競争する大手法律事務所の幹部パートナーをもしばしば指導しています。

彼は、法律の専門家に対するコミュニケーションコンサルタントとして35年以上働いてきました。彼のコミュニケーションに関する講義は、1988年以来、全米法廷弁護技術研究所(NITA)の2週間にわたる全国法廷弁護技術プログラムのオープニングイベントになっていました。2000年には、NITAのプレンティス・マーシャル判事賞を、NITAの歴史上初めて、非弁護士として受賞しました。

エストニアでは、ジョンソンは糾問主義から当事者主義への移行のために弁護士を訓練するチームの一員でした。アメリカ合衆国司法省のため、彼はサウスカロライナ州コロンビアにある連邦弁護技術センターで連邦検事補たちに対して毎月講義と指導をしています。彼は、ミシガン州グランドラピッズで行われるヒルマン弁護技術プログラムでも毎年教えています。また、テネシー大学、テンプル大学ロースクール、マクジョージ大学ロースクール、そしてベルファストのクイーンズ大学法学研究所において、法廷弁護の客員講師をしています。

裁判コンサルタントとして、ジョンソンは法廷弁護士たちと協働して証人尋問の準備をしています。彼は、数十億ドルの評決を勝ち取った特許侵害事案をはじめ、インターネットブラウザー、豊胸手術、医療機器、金融サービスや航空産業に関連する事案について関与した経験があります。

マーシャ・ハンター
MARSHA HUNTER

マーシャ・ハンターは、法的コミュニケーションの専門家であり、どのような状況でも自信を持って説得的に話ができるように弁護士たちを訓練しています。彼女の助言のもと、法廷弁護士たちはその弁護技術を研ぎ澄まし、法廷に立たない弁護士たちはその説明を洗練させ、よりわかりやすく流暢で、雄弁になります。ハンターは、もっぱら弁護士のみを対象にして、口頭での弁護活動や専門的なパブリックスピーキングの技術を教えています。

ジョンソン・アンド・ハンター社の代表として、ハンターはアメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、そしてヨーロッパに法律分野の依頼者を有しています。彼女はNITAやアメリカ合衆国司法省、アメリカ法曹協会(ABA)、精鋭の法律事務所やロースクール、そして、ベルファストからタスマニアにまで及ぶ数々の弁護士会にてコミュニケーション技術を教えています。

ハンターは、数多くの法律雑誌に論文を発表しています。その中には、アメリカ法曹協会訴訟部門の「The Woman Advocate」、「Texas Bar Journal」、「PD Quarterly」、「NALP Bulletin」、「Legal Advocate」などが含まれています。彼女は、有名人がどのようにジェスチャーしているかといったことから、自分自身の自然な声の高さと抑揚を使って話す技術に至るまで、様々な話題について、「The Articulate Attorney」というブログに投稿しています。

訳者あとがき

かつてのころの日本の裁判は、口頭でのやりとりによって事実認定者の心証に影響を与えることをおよそ想定しないものでした。検察官は、難解で長大な文章を何かの呪文のように恐ろしいスピードで読み上げていました。弁護人の弁論は、弁論要旨・・と題する書面の全文・・を、「である」調を「であります」調に変換しながら高速で読み上げるという奇妙な職人芸でした。民事の口頭弁論期日において、口頭で議論がなされる場面を見ることはありませんでした。

刑事裁判に裁判員制度の導入が決まり、公判中心主義や口頭主義の重視が求められるようになりました。日弁連では、テンプル大学ロースクールや全米法廷技術研究所(NITA)から講師を招聘し、英米流の口頭での弁護活動に基づく研修を行いました。私はその講師たちの圧倒的なレベルの高さ、圧倒的なわかりやすさと説得力に衝撃を受けたし、実際にそれを見た多くの弁護士も同様だったと思います。

裁判員制度が定着するにつれ、刑事裁判はわかりやすくなりました。しかし、他方で、違和感もありました。ペーパーレスで抑揚をつけて話すのがよいとされた結果、原稿をがんばって覚えたり、書面を上手に読み上げようとしたりすることが広く行われるようになりました。尋問においても、尋問の組立ての重要性が強調された結果、反対尋問事項をきっちりと作ってそれに従って尋問する弁護士が増えました。しかし、それは何かが根本的に違うのではないかという気がしていました。

そのような中、2017年に、大阪弁護士会刑事弁護委員会の有志で、当時川﨑拓也弁護士が日弁連推薦留学制度を利用して留学していたサンフランシスコへ視察に行く機会がありました。そこで多数の裁判を傍聴する中で印象的だったのは、法廷に立っていた弁護士たちが、内容は必ずしも整然としていなくても、みな口頭で議論していたことです。そこには、英米における、口頭での議論こそが人を説得するのだという思想が感じられ、それは日本の司法界では十分理解されていない考え方でした。本書は、そのような経験を経た、そのときのメンバーを中心に翻訳をすることになったものです。

本書では、説得のために、「どのような内容を伝えるべきか」ということは一切解説されていません。本書は、もっぱら「どのように伝えるべきか」という点に焦点を絞った書籍です。ここには、NITAなどで教えられている法廷弁護技術の基礎となる考え方が盛り込まれており、本書を読めば、NITAやテンプル大学ロースクールの講師の実演を目にすることができなかった人でも、その一端を感じとることができます。本書では、自分の身体、脳、そして声をどのように使っていくか、心理学的・医学的な知見に基づく理論的裏づけとともにヴィジュアルに解説しており、これまでは熟練した弁護士から「見て盗む」しかなかったことを誰でも学ぶことができます。また、本書は練習方法についても1章を設けており、周りに必ずしも優れた指導者がいない人でも自らその技術を磨くことができるようになっています。本書は、これまでの「法廷弁護技術」を理解している人にとっては、その背景にある考え方を理解し、見直す手助けとなるもので、これから学ぶ人にとっては、法廷弁護活動の基礎となりうるものです。そして、説得が弁護士の活動の核であることは、民事・刑事を問わないはずです。

言語や法制度の違いもあるので、本書に記載されている全てを日本にそのまま導入できるわけではありませんが、参考になればと、そのような部分も省略することなく翻訳しています。訳者の力不足もあり、一部、読みにくいところもあるかと思いますが、ご容赦いただければと思います。

また、最後になりますが、遅々として進まない翻訳作業に粘り強く付き合っていただいた日本評論社をはじめ、本書の出版にご助力いただいた皆様には改めて感謝したいと思います。なお、共訳者の1人である白井淳平弁護士は、体調の都合により途中で離脱せざるをえなくなってしまいました。訳者一同、彼の回復を願っています。

本書が少しでも読者の皆様の役に立ち、日本の弁護士の弁護技術の向上に資するものとなれば幸いです。

2023年4月
訳者代表 大森景一

目次

刊行によせて ジャミ・ウィンツ・マキ―オン
序 文
はじめに

第1章 身体

◆アドレナリンを理解する
◆自分自身の儀式を創る
◆下半身をコントロールする
足を据え付ける/静止して立つ/柔軟な膝/腰を中心に置く/目的を持って移動する
◆戦略的な呼吸
意識的な呼吸の力学/息を中に吸い込み、外に出して話す/思考する脳に酸素を送る
◆手の扱いをどうするか?
自然なジェスチャーの科学/自然なジェスチャーの芸術/自分自身のジェスチャーを一気に活性化させる/最初に感覚をつかむ/ジェスチャーの領域/ジェスチャーの衝動
◆レディポジション
「目に見えない」レディポジション/絶対はない/準備ができていることの仕組み/秘密の握手
◆自然なジェスチャーの3つのR

【この項目をもっと立ち読みする】

与える・切る・見せる/「棚に載せる」ジェスチャー/注意を逸らせるジェスチャー/ペンを持たないようにする
◆ジェスチャーについてのまとめ
◆姿勢と各部位の位置の調整
首と頭/背骨を調整する/座った状態での弁護活動/顔/口/眉間のしわ/アイコンタクト/目とメモ
◆まとめ
自分自身に言い聞かせましょう

第2章 脳

◆アドレナリンとタイムワープ
集中できるゾーンを求めて/エコーメモリー
◆その場で考える
朗読しない/暗唱しない/構造化された即興/読むことと話すことを同時にしない
/ヴィジュアルエイドとしてのメモ/忘れることを計画に入れる/準備の1つのステップとして原稿を書く/「後ろ向き」に考えることを避ける/チャンキング
◆構造:初頭効果と新近効果
◆戦術的な選択としての態度
ミラーニューロン
◆法廷での電子証拠の使用
◆まとめ
自分自身に言い聞かせましょう

第3章 声

◆自分自身の声を聞く
◆肺と横隔膜
肋間筋と胸郭/呼吸で声を押し出す/声の疲れ/喉頭と声帯/調音器官と発音/はっきりと発音するためのウォームアップ
◆説得的な選択をする
エネルギーを高め、ペースを落とす/文章全体ではなく、フレーズで話す/フレージングの方法/ペースを変える/最初の一言でペースをつかむ/落ち着いて話し始める
◆思考中のノイズをなくす
隙間を意識する
◆強調と意味
音量、音の高さ、持続時間
◆ただ読むだけではなぜだめなのか?
読み上げなければならないとき
◆ジェスチャーと強調
単調/自分自身を指揮する/なめらかに行う/始まりをジェスチャーしながら練習する/することを視覚化する
◆韻律:自然な会話における音楽的要素
聞こえる句読点/自信を持って終わる
◆口調と態度
◆口頭表現の技術の練習
◆まとめ
自分自身に言い聞かせましょう

第4章 練習方法

◆知ること vs 方法を知ること
◆練習:耐えるべきことおよび避けるべきこと
鏡を用いた練習/練習を妨げる正当化/辛抱強く続ける
◆それぞれの練習方法
身体のチェックリストを実行する/声のウォームアップをする/フレーズで話す
/直ちにジェスチャーをする/まず口に出し、その後で書く/始まり方を練習する/終わり方を練習する/移り変わりと見出しを練習する/ジェスチャーを一気に活性化させることを練習する/音読しなければならないとき:練習する!/記憶したことを暗唱するとき/メモとヴィジュアルエイド/法廷の儀式を声に出して練習する/ビデオを撮影する
◆特定の問題を解決するための練習方法
◆形式ばらない練習セッション
日常会話の際に練習する/観察し、適合させ、採用する/対極法
◆精神的なゲームのための練習
◆まとめ
自分自身に言い聞かせましょう

第5章 裁判で技術を活用する

◆陪審員選任
◆冒頭陳述
◆主尋問
◆反対尋問
◆最終弁論
◆まとめ
自分自身に言い聞かせましょう

付録

■付録1 話し手のチェックリスト
――効果的な弁護活動のための身体、脳そして声の協働
身体をコントロールすること/脳を制御すること/声をコントロールすること/声に出して練習すること
■付録2 ビデオによる自己評価チェックリスト
――ビデオに映る自分自身を批評すること
足と姿勢/膝と腰/息の支え/ジェスチャー/姿勢/顔/目/思考/話すこと/対極法
■付録3 仲裁において座っているときの基本的な伝達技術
■付録4 申立てや上訴審において議論するときの基本的な伝達技術

参考文献一覧
著者について
訳者あとがき
訳者紹介

書誌情報など

脚注   [ + ]

1. 一定期間公益活動に従事させつつ、給料等を支払う制度。
2. アメリカにおいては、刑事事件も民事事件も、の大部分は司法取引や和解で終了するため、事実審理に進むことは稀である。
3. せっかち、怒りっぽい、競争心が強いなどの行動パターンを指す。
4. アメリカ合衆国においては、証拠排除の申立て(motion in limine)等の各種申立て(motion)は職業裁判官のみで行われることが通常である。申立て自体は書面でなされることが多いが、実際には、法廷で裁判官から矢継ぎ早に質問があり、それに答える形で審理が進んでいく。
5. 特に審理期間に定めを置いて、効率的かつ迅速に審理を進める事件類型を指す。