(第22回)就業先送達にご用心

民事弁護スキルアップ講座(中村真)| 2023.10.13
時代はいまや平成から令和に変わりました。価値観や社会規範の多様化とともに法律家の活躍の場も益々広がりを見せています。その一方で、法律家に求められる役割や業務の外縁が曖昧になってきている気がしてなりません。そんな時代だからこそ、改めて法律家の本来の立ち位置に目を向け、民事弁護活動のスキルアップを図りたい。本コラムは、バランス感覚を研ぎ澄ませながら、民事弁護業務のさまざまなトピックについて肩の力を抜いて書き連ねる新時代の企画です。

(毎月中旬更新予定)

夏の暑さも9月の半ばを過ぎるとようやく落ち着きを見せてきました。諸般の事情により約1年以上ぶりの更新となりますが、今回と次回は民事訴訟における重要な訴訟行為である送達のお話です。

1 送達とはなにか

送達とは、当事者その他の訴訟関係人に対し、法定の方式に従い、訴訟上の書類を交付してその内容を了知させ、又はこれを交付する機会を与える司法機関の訴訟行為であり、平易な言葉で言うと「法定の方式に従って行う書類の交付行為」です。概念的には、送達される書類の同一性及び送達実施の証書(=送達報告書)を作成しこれを公証することも含みます。

なお、送達ほど厳格な方式によることを要しない書類の交付の方法としては「送付」があり、弁護士のみなさんが日々、せっせと準備書面や証拠を相手方に直送しているのも、実はこの「送付」に当たります。送達と異なり、送付で足りる書類のやり取りについてはファクシミリを使って行うことが認められています(民規47条1項)。

さて、民事訴訟手続で、ある書類を当事者に送る(到達させる)ときに送達によるのか送付によるのかというのは普段あまり意識しないものの、実はかなり重要な問題です。

そして、この切り分けに関する民訴法や民訴規則の基本的なスタンスとしては、その到達によって名宛て人に重要な訴訟上の効果が生ずるような性質の書類については送達の方法によるべきものとしています(司法協会『民事実務講義案Ⅱ(五訂版)』5頁参照)。

われわれに馴染みに深いものをいくつか挙げると、訴状や反訴状、控訴状、上告状、期日呼出状、訴訟告知書、補助参加の申出書、判決書、訴えの取下書(場合による)などは送達が必要とされています。新人の弁護士が期日で準備書面と同じような感覚で請求拡張(訴えの変更)申立書を出そうとして、「これも送達が必要なんですよ」と書記官さんにやんわりと指摘され、送達期間をとるために次回期日以降に持ち越しとなるというのは、わが国の民事訴訟の風物詩となっています。

このコンテンツを閲覧するにはログインが必要です。→ . 会員登録(無料)はお済みですか? 会員について

中村真(なかむら・まこと)
1977年兵庫県生まれ。2000年神戸大学法学部法律学科卒業。2001年司法試験合格(第56期)。2003年10月弁護士登録。以後、交通損害賠償案件、倒産処理案件その他一般民事事件等を中心に取り扱う傍ら、2018年、中小企業診断士登録。2021(令和3)年9月、母校の大学院にて博士(法学)の学位を取得(研究テーマ「所得税確定方式の近代及び現代的意義についての一考察-我が国及び豪・英の申告納税制度導入経緯を中心として-」)。現在、弁護士業務のほか、神戸大学大学院法学研究科にて教授(法曹実務)として教壇に立つ身である。