(第7回)リセット――殺人未遂

ただいま調査中! 家庭裁判所事件案内(高島聡子)| 2024.04.04
2024年度前期朝ドラ『虎に翼』のモデルとなった三淵嘉子が、その設立に関わることになる家庭裁判所。戦後まもなく産声を上げた、社会的弱者のための裁判所では、令和の今、どんなことが起きているのでしょうか? そして「家庭裁判所調査官」とは、どんなお仕事?
普段は手続非公開のベールに隠れている“中の人”が、リアルな現場の点景をお伝えします。
(事件はすべて、家裁に係属する事件の特徴を踏まえて創作した架空のものです)

(毎月上旬更新予定)

前触れ

「……署は、無職の女子少年(16歳)を殺人未遂容疑で現行犯逮捕した。女子少年は、同居する50代の伯母に包丁で切り付け、殺害しようとした疑い。被害者の命に別状はなく……」

その日の朝、私が目を止めたネットニュースの記事は意外なほど短いものだった。地名は私の勤務する家庭裁判所が管轄する地域だ。いくつか記事を探してもそれ以上の記載はなく、16歳女子、殺人未遂、と思いながら役所への道を歩く。

数日後。定例の管理職ミーティングで、裁判官からも「あの女子の件、うちだよね?」とその話題が出た。書記官は既に情報を得ていたようで、「はい、前歴なしですね。黙秘とか否認はないようです。健康も問題はないと聞いてます」と言い、裁判官も「16歳女子、殺人未遂かあ」と、私と同じことをつぶやいたが、それ以上は私たちに分かることもなく、話題はその週予定されている別の少年の審判で警備が必要かという検討に移っていった。

このコンテンツを閲覧するにはログインが必要です。→ . 会員登録(無料)はお済みですか? 会員について

高島聡子(たかしま・さとこ)
神戸家庭裁判所姫路支部総括主任家庭裁判所調査官。
1969年生まれ。大阪大学法学部法学科卒業。名古屋家裁、福岡家裁小倉支部、大阪家裁、東京家裁、神戸家裁伊丹支部、京都家裁、広島家裁などの勤務を経て2023年から現職。現在は少年、家事事件双方を兼務で担当。
訳書に『だいじょうぶ! 親の離婚』(共訳、日本評論社、2015年)がある。