(第3回)恋人転移から始まり、父親転移を通り、おじいさん転移に到る

プロ精神科医あるあるノート(兼本浩祐)| 2024.04.16
外来のバックヤード、あるいは飲み会などフォーマルでない場で、臨床のできる精神科医と話していると、ある共通した認識を備えていると感じることがあります。こうした「プロの精神科医」ならではの「あるある」、言い換えれば教科書には載らないような暗黙知(あるいは逆に認識フレームの罠という場合もあるかもしれません)を臨床風景からあぶり出し、スケッチしていくつもりです。

(毎月中旬更新予定)

若い精神科医の試練のひとつとしての恋人転移

きちんと臨床をしようとしている若い精神科医にとって、最初の試練はいくつかありますが、「恋人転移」もそのひとつでしょう。文字どおり、来訪者が年若い精神科医に恋をしてしまうことですが、一般読者の人にもきちんと紹介するためには(このコラムに一般読者というものがそもそもいるのかどうかという突っ込みはとりあえず棚上げにしておいてのことですが)、「転移」というもともとは精神分析業界の界隈で使われていることばについて簡単に説明しておく必要があるでしょう。

転移という用語は、精神分析の肝となる用語ですし、何冊もそのための専門書が書かれていますから、それを解説するというのは実のところとんでもない話なので、ここではごく浅めに、自分の子どものときのお母さんやお父さん、あるいは兄弟姉妹との関係を、治療者と自分の関係に知らず知らずに持ち込んでしまうこと、という程度に考えておきましょう。

これは何も被治療者が治療者に対して持ち込むとは限らず、被治療者に対して治療者が同様の関係を持ち込んでしまう場合もあります。いわゆる逆転移というやつです。

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兼本浩祐(かねもと・こうすけ)
中部PNESリサーチセンター所長。愛知医科大学精神神経科前教授。京都大学医学部卒業。専門は精神病理学、臨床てんかん学。『てんかん学ハンドブック』第4版、『精神科医はそのときどう考えるか』(共に医学書院)、『普通という異常』(講談社現代新書)など著書多数。