「代執行訴訟」における裁判所の審査権:福岡高裁那覇支部2023(令和5)年12月20日判決(白藤博行)

判例時評(法律時報)| 2024.03.28
一つの判決が、時に大きな社会的関心を呼び、議論の転機をもたらすことがあります。この「判例時評」はそうした注目すべき重要判決を取り上げ、専門家が解説をする「法律時評」の姉妹企画です。
月刊「法律時報」より掲載。

(不定期更新)

◆この記事は「法律時報」96巻4号(2024年4月号)に掲載されているものです。◆

 福岡高裁那覇支部2023(令和5)年12月20日判決

1 「代執行訴訟」に至るまでの経緯

定価:税込 2,090円(本体価格 1,900円)

国は、辺野古新基地建設のための埋立工事を強引に進めてきたが、大浦湾周辺海域の埋立にかかる軟弱地盤改良工事のための埋立地用途変更と設計概要変更の承認を申請せざるを得ない事態に陥った。沖縄県知事は、公有水面埋立法(以下、「公水法」)の変更承認申請を認める「正当ノ事由」(13条の2)もなければ、国土利用上適正かつ合理性的であることの要件(4条1項1号)や環境保全・災害防止の要件(同2号)も満たさないと判断して変更不承認処分を行った。そこで防衛省沖縄防衛局は、地方自治法(以下、「自治法」)255条の2に基づき、国交大臣に対して同処分の取り消しを求める審査請求を行ったところ、行政不服審査法(以下、「行審法」)に基づき処分を取り消す裁決を行い、同時に、知事に変更承認処分を求める勧告(自治法245条の4)を行い、さらに「是正の指示」(同245条の7)も行った。沖縄県は、これを不服として国地方係争処理委員会に審査の申出を行い(同250条の13)、さらに国交大臣に対する裁決取消訴訟と「是正の指示」の取消訴訟(ともに自治法251条の5に基づく関与取消訴訟)を福岡高裁那覇支部に提起したところ、前者は却下(上告受理申立て不受理)、後者は2023年3月16日に棄却(以下、「3.16高判」)され、最高裁は2023年9月4日に上告棄却の判決(以下、「9.4最判」)をした。これをもって国が知事に変更承認処分を求める「是正の指示」の適法性が確定し、これに従わない処分を行わない知事の行為は違法であることが確定したといわれる。それでも知事が変更承認処分を行わないため、国交大臣は「代執行等」関与(自治法245条の8)の手続を開始した。まず、知事に対して変更承認処分を求める「勧告」(第1項)、続いて「指示」(第2項)、これらに従わない知事に対して、裁判所の変更承認処分の執行命令を求める「代執行訴訟」1)が提起された(第3項)。福岡高裁那覇支部は、2023年12月20日、知事に対して承認を命ずる判決(以下、「代執行判決」)を行い(同6項)、知事がこれに応じる意思を示さないため、国交大臣は知事に代わって変更承認処分を行い(同8項)、知事は最高裁に上告受理申立てを行うものの、上告に執行停止効がないため(同10項)、沖縄防衛局は埋立工事を「再開」するに至った。

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脚注   [ + ]

1. 自治法245条の8第3項の訴訟は、一般に「代執行訴訟」と呼ばれているが、各大臣が知事を被告として、自らの指示事項の執行を命ずる裁判を求めるものであり、本来、旧制度の「職務執行命令訴訟」と同名で呼ぶべきものである。その名称が旧制度と紛らわしいのであれば、「事務管理執行命令訴訟」とでも呼称した方がよいが、本稿では、さしあたり「代執行訴訟」の呼称に従う。