(第15回)不妊:男性不妊・女性不妊・不妊治療・生殖補助医療

ヒトの性の生物学(麻生一枝)| 2024.11.15
LGBTQ,少子高齢化,男女共同参画など,議論の的となっている社会テーマの多くは,ヒトの性と関係しています.「自分がどのようにして (how),自分になったのか」を知ることは,性的マイノリティの自己の確立に大きく影響し,また,年齢に伴う卵子や精子の老化は,私たちがどのようにキャリア形成とプライベートな生活 (結婚や家庭をもつなど) を両立していくかを考える上で,避けては通れない生物学的事実です.しかし現実には,様々な議論が,生物学抜きで,あるいは生物学の誤った解釈の下におこなわれており,責任ある立場の人々の誤った言説もあとを絶ちません.
このシリーズでは,私たちの人生に密接に関係する「ヒトの性に関する生物学的知見」を紹介していきます.

(毎月中旬更新予定)

晩婚化・晩産化の進む今日、不妊と聞くと、加齢による生殖能力の低下ばかりに目が行きがちだ。私も、ここまで数回にわたって、年齢にともなう妊娠率の低下や流産率の上昇、遺伝子の変化などについてお話ししてきた。しかし、年齢は生殖能力に関係する多くの要因のひとつに過ぎない。子を授かりたいと願いながらも授かることのなかったカップルは、どの時代にも、そして、世界中どこにでもいたはずだ。現在でも、生殖年齢にある世界中のカップルのおよそ 10〜15%が、妊娠に関わるなんらかの問題をかかえていると推定されている[1]

以下、不妊とはどういう状態を指すのか、不妊の原因は何なのか、人工授精・体外受精などの不妊治療とはどのようなものなのかを概観していこう。

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麻生一枝 サイエンスライター,成蹊大学非常勤講師. お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋生物学修士,ハワイ大学動物学Ph.D. (研究テーマは魚類の性分化・性転換).「健全な科学研究における統計学や実験デザインの重要性」「ジェンダー研究における生物学の重要性」という 2 つのテーマで活動してきている.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』(SBクリエイティブ),『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社),『データを疑う力』(東京図書出版) など.