『ジュニア数学オリンピック 2019-2024』(編:数学オリンピック財団 )
まえがき
数学オリンピック財団は 2003 年 7 月に第 44 回国際数学オリンピック (IMO) を日本で開催しました.この大会を記念して,これまでの高校生以下を対象として毎年行ってきた日本数学オリンピック (JMO) に加えて,中学生以下を対象とした日本ジュニア数学オリンピック (JJMO) を JMO と同時に実施することにしました.算数・数学好きな日本中の少年少女諸君がこの JJMO に参加してそれぞれの才能を素晴らしい将来に向けて開花するよう願っています.
まず,「なぞなぞ」をやりましょう.
「ある正の整数の半分の数に 1 を加えると元の数になる数はなあに?」
間違ってもかまわないから (誰でも間違うものです),答えを見ないで,まずどんな方法でもよいから自分で答えを考えましょう.答えが当たっていたら万歳! 当たらなかったら,くやしがる代わりに,落ち着いて,どこで間違ったかを,あるいは別の方法を考えてみましょう.
「なぞなぞ」の解答の方法はいくつもあります.まず 1 から初めて $2,\,3,\,4,\,\cdots$ と試してみます.呑気な方法ですけど,いつかは必ず答えが見つかるはずです.まず答えを 1 とします.すると
\begin{align*}
\frac 12+1=\frac 32 \neq 1.
\end{align*}よって答えは 1 ではない.次に 2 としてみると,
\begin{align*}
\frac 22+1=1+1=2.
\end{align*}おお,ラッキー.答えは 2 です.
半分に半分を加えれば元の数になるし,また半分に 1 を加えると元の数になるから,半分は 1 に等しい.よって元の数は 2.
代数の考えを用いて,元の数を $x$ とすると,
\begin{align*}
\frac {x}2+1=x.
\end{align*}
この 1 次方程式を解いて
\begin{align*}
1=\frac {x}2,\quad x=2.
\end{align*}
「サブチェフさんのパズル」
半径の同じ 2 枚の円形の紙 A, B にそれぞれウインクしている少女のまったく同じ絵が描かれています.ただし,A の中心は少女の開いている目にありますが,B ではそうではありません.このとき B を 2 つの部分に切ってそれらの部分をつなぎ合わせて,A と B の絵がぴったり重なるようにしたい.そのためには B をどのように切ったら良いか?
図を描いても分らなかったら,円形の紙 A, B を作って実験してみるといいでしょう.答は A の上に,両方の中心が合うように B を載せて,A からはみ出した B の部分を切り取ればよい.
数学オリンピックの IMO, JMO, JJMO の問題は学校での試験や中,高,大学などへの入学試験のように,教えられたことをどれだけ覚えているかを試す記憶力のテストではなく,上のなぞなぞやパズルのように判らない事柄の答えを自分で考えて見つけ出す,問題解決力のテストなのです.
ですから,この本はまず問題から始まります.それらの問題を解決するのに必要な知識はそのあとの知識編にまとめてあります.まず問題を見て解答を見ないで,ゆっくり考えましょう.必要なら知識編も見ましょう.そしてしばらく考えましょう.それでも解けなかったら解答を見てもいいでしょうし,解答を見ずにさらに時々頑張って見るのもいいでしょう.そして次の問題に進みましょう.…….このように焦らず望みを捨てずに解けなかった問題に再挑戦したりして,明日を期待して,楽しみながら一歩一歩と考え続けましょう.
こうしているうちに皆さんの問題解決力は日に日に育ってゆくのです.誰もこうした過程を通らないで数学オリンピックの問題をスイスイ解決することはできないと思います.
この本は 4 年くらい前から企画され, JMO の大先輩である児玉大樹,岩瀬英治,平口良司,斎藤新悟,長尾健太郎,小林佑輔,河村彰星,近藤宏樹,樋口卓也,松本雄也の諸君が一致協力して,後に続く諸君のために編集したプレゼントです.
では, Good Luck!
改訂版まえがき
2003 年から始まった「ジュニア数学オリンピック」も順調に推移してきました.当初は答のみを問う単答式の 12 問で競う 1 回制の試験でしたが,2009 年の第 7 回からは,「数学オリンピック」と同様に,単答式 12 問の予選と,証明も要求する 5 問の本選の 2 回制になりました.この間,2006 年に本書が出版され,コンテストに挑戦しようという多くの方々に愛読されてきましたが,2 回制になったのを機に若干の手直しをすることにしました.
まず,兄貴分の『数学オリンピック』に倣って過去の問題を 5 年分にしました.これに伴い知識編をやや充実させました.また,中学校までの数学では,本格的な証明をすることがほとんどないので,証明の書き方や証明問題の取り扱い方などにも注意を払いました.
本書がジュニア数学オリンピックへの参加を目指す諸君のよき伴侶となることを願っています.
2010 年 3 月
リニューアルにあたって
2003 年からの「ジュニア数学オリンピック」も順調に受験人数を増やし,現在では 3000 名を超える人数となりました.また,コロナ禍を機会にリモートで予選を行っていますが問題なく試験は行われています.さて,今回のリニューアルにあたり,誤答集をなくし,過去の結果を昨年分のみの掲載にしました.しかし,過去の問題と詳しい解説はこれまでと同じく 5 年分を収録し,内容は変わらず充実していますので,数学オリンピック対策には充分な内容を維持しています.
本書がジュニア数学オリンピックに参加する諸君への良きガイドとなるよう願っています.
2024 年 4 月