(第16回)卵子の凍結:受精卵凍結(胚凍結)と未受精卵子凍結

ヒトの性の生物学(麻生一枝)| 2024.12.16
LGBTQ,少子高齢化,男女共同参画など,議論の的となっている社会テーマの多くは,ヒトの性と関係しています.「自分がどのようにして (how),自分になったのか」を知ることは,性的マイノリティの自己の確立に大きく影響し,また,年齢に伴う卵子や精子の老化は,私たちがどのようにキャリア形成とプライベートな生活 (結婚や家庭をもつなど) を両立していくかを考える上で,避けては通れない生物学的事実です.しかし現実には,様々な議論が,生物学抜きで,あるいは生物学の誤った解釈の下におこなわれており,責任ある立場の人々の誤った言説もあとを絶ちません.
このシリーズでは,私たちの人生に密接に関係する「ヒトの性に関する生物学的知見」を紹介していきます.

(毎月中旬更新予定)

昨年 2023 年の春夏ごろ、「卵子凍結」という言葉が頻繁に新聞や TV に登場していたのだが、気づかれただろうか。きっかけは、東京都が、「少子化対策の一環として、健康な女性の卵子凍結保存に対して、支援を検討していく」という方針を示したことにあるようだ[1]。その後、タレントの指原莉乃さんをはじめとする有名人が、卵子を凍結したことを相次いで公表したことで、卵子凍結という言葉の認知度は一気に上がったようだ。

突然、注目を浴びた卵子凍結だが、体外受精・胚移植を行った際に余った受精卵 (余剰胚) の凍結、そして、癌の治療など卵巣機能を低下させる可能性のある治療に先立つ未受精卵子の凍結は、以前から行われていた。今回話題となったのは、加齢による生殖能力の低下を心配する、健康な女性による未受精卵子の凍結である。以下、余剰胚の凍結、そして、未受精卵子の凍結についてみていこう。

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麻生一枝 サイエンスライター,成蹊大学非常勤講師. お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋生物学修士,ハワイ大学動物学Ph.D. (研究テーマは魚類の性分化・性転換).「健全な科学研究における統計学や実験デザインの重要性」「ジェンダー研究における生物学の重要性」という 2 つのテーマで活動してきている.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』(SBクリエイティブ),『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社),『データを疑う力』(東京図書出版) など.