(第29回)弁護士賠償責任保険の落とし穴

民事弁護スキルアップ講座(中村真)| 2024.06.20
時代はいまや平成から令和に変わりました。価値観や社会規範の多様化とともに法律家の活躍の場も益々広がりを見せています。その一方で、法律家に求められる役割や業務の外縁が曖昧になってきている気がしてなりません。そんな時代だからこそ、改めて法律家の本来の立ち位置に目を向け、民事弁護活動のスキルアップを図りたい。本コラムは、バランス感覚を研ぎ澄ませながら、民事弁護業務のさまざまなトピックについて肩の力を抜いて書き連ねる新時代の企画です。

(毎月中旬更新予定)

汗ばむ日、肌寒い日を繰り返しながら、今年も徐々に初夏の足音が近づいて参りました。これから季節は暑くなる一方だと思いますが、今回取り上げるのは、弁護士が適度に涼を感じられる話題、弁護士賠償責任保険の落とし穴です。

1 弁護士賠償責任保険

我々弁護士が業務を行う上で、必ず付保しておかなければならない保険、それが弁護士賠償責任保険(弁賠保険)です。一定額以上の保険の付帯が法律相談担当の要件とされるなど、弁賠保険は我々弁護士が業務で必ず身につけておかなければならない重要な守り神です。

ただ、特に若い弁護士と話していると、この一風変わった賠責保険について、その補償範囲や仕組みを正しく理解できていない方も散見されます。

それには、わかりにくい補償範囲やクセのある免責事由など、普段、弁護士が業務の中で取り扱うことになる賠償責任保険とは異なる部分があるためだろうと考えます。

以下、全国弁護士協同組合連合会編集の『弁護士賠償責任保険の解説と事例【第6集】』(以下では、単に「解説と事例」と記載します)を元に、落とし穴を埋めていく作業を試みることといたしましょう。

(1) わかりにくい補償範囲

弁護士賠償責任保険にも、基本補償とオプション補償とがあります(「解説と事例」8~9頁)。

このうち、契約内容にかかわらず基本補償となっているものは以下のとおりです。

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中村真(なかむら・まこと)
1977年兵庫県生まれ。2000年神戸大学法学部法律学科卒業。2001年司法試験合格(第56期)。2003年10月弁護士登録。以後、交通損害賠償案件、倒産処理案件その他一般民事事件等を中心に取り扱う傍ら、2018年、中小企業診断士登録。2021(令和3)年9月、母校の大学院にて博士(法学)の学位を取得(研究テーマ「所得税確定方式の近代及び現代的意義についての一考察-我が国及び豪・英の申告納税制度導入経緯を中心として-」)。現在、弁護士業務のほか、神戸大学大学院法学研究科にて教授(法曹実務)として教壇に立つ身である。