「紅麹」の問題をめぐる規制と市場の在り方(川濵昇)

法律時評(法律時報)| 2024.06.27
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」96巻7号(2024年7月号)に掲載されているものです。◆

1 はじめに

本年3月22日に公表された小林製薬の紅麹関連商品による健康被害は、公表後の1週間たらずの間に5名の死亡や多数の入院を要する健康被害が明らかになり、その被害の大きさに世間を震撼させた。この間、小林製薬が健康被害を疑う事象に気づきながら、その原因が不明であるとして報告、公表が遅滞なく行われなかったことも明らかになり、それが被害拡大の一因と考えられた。また、今回の食品公害(あえてこのように呼ぶ。)はその製造管理に問題があったのではないかという疑問もあった。紅麹関連商品は、機能性関与成分による健康の維持及び増進に資する特定の保険の目的が期待できる旨が表示される「機能性表示食品」であった。健康のために購入した著名企業の供給する製品で重大な健康被害にあった被害者の無念はいかほどのものであろう。

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定価:税込 2,090円(本体価格 1,900円)

紅麹問題を受けて消費者庁は有識者からなる機能性表示食品を巡る検討会を立ち上げた。検討会は短期間に精力的な検討を行ない、5月27日に「機能性表示食品を巡る検討会報告書」を公表した。そこでは機能性表示食品の安全に関する多数の問題について、届出ガイドラインや法令の改正も視野に入れた重要な提言がなされている。特に、紅麹事件で問題となった報告、公表の遅延の原因と考えられる、(1)健康被害情報の収集、行政機関への情報提供義務等と本件被害の一因かもしれない、(2)製造管理及び品質管理等に関する提言が重要である。

ここでそれらを詳しく説明する余裕はないが、(1)については、情報提供義務についてのスタンダード型の不明確さを取り除いて、明確なルールによる義務の強化と明確化の方向性が示されたこと、機能性表示食品に関しては事後の監督規制が法的にも事実的にも難しいことが従来の課題であったが、食品表示基準において提供に関するルールを規定することにより、それを遵守しない場合には機能性表示食品としての表示を食品表示法上の指示・命令などの行政措置を可能にするという方向も示されている。何よりも「消費者に反復継続して摂取されることが見込まれる」という認識が安全性について厳格な規制を必要としたのは正しい。

また、(2)製造管理及び品質管理等に関しては、「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」(以下「届出ガイドライン」)は、機能性表示食品サプリメント形状の食品衛生上の観点からGMP(Good Manufacturing Practice=製造管理及び品質管理の基準)による製造工程管理が強く望まれるとしてはいたものの、義務ではなかったのを、法令で規定されたGMPに基づく製造及び品質管理を義務づけることも提言されている。2で見るように機能性表示食品制度の導入の際に参考にされた米国のダイエタリーサプリメントでは、これまでの問題事例から食品医薬品局(FDA)がGMPを規則化して遵守を要求している。これに関連して、一部報道によれば今回問題を引き起こした紅麹はGMPでない工場で生産されたが、輸出品についてはGMP遵守の工場から出荷されていたとのことである。事実関係が不明なので断定的評価はくだせないものの、割り切れないものを感じる。消費者庁が必要に応じて食品表示法に基づく立入り検査を行うという仕組みの検討も、上述の事後の監督規制が困難であることへの対処として必要不可欠である。なお、FDAはGMP遵守のための検査を精力的に行っている。これら以外にも重要な提言はあるが紙幅の関係から省略する。

紅麹の食品公害の原因が不確実な状況下であるにもかかわらず、あり得べき原因を念頭に、一月あまりという短期間で、懸案事項について適切な取りまとめを行った検討会のメンバーに敬意を払いたい。しかし、検討会報告書は、機能性表示食品制度をいわば所与とした議論であるため、その制度についての根本的見直しはなかった。本稿では根本的見直し、少なくとも本格的な政策評価を行う必要があることを述べようと思う。

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