『思春期の「つながる気持ち」はどこへ行く?ーー学校に行きづらい子どもとネット・ゲーム・SNS』(著:関正樹)

一冊散策| 2024.07.08
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

 

 

はじめに

思春期というと、みなさんはどんな子どもたちの姿を思い描くでしょうか?
「反抗期」と結びつける人もいるでしょうし、「自立の時期」を思い浮かべる人もいるかもしれません。一般的には、思春期とは、第二次性徴に伴う身体的な変化を背景に、大人社会という未知の領域へと足を踏み出す時期だといわれています。そして、これまでは大好きだった親の庇護がちょっと嫌になるとともに、友だちを含む他者の目を強く意識するようになる時期でもあります。

これは素朴に描いた思春期のありようですが、実は子どもたちにとって、この時期を何事もなく生き抜いていくことはそれほど簡単ではありません。思春期の心理的課題は、それまでの両親への依存から離れ、親から受け継いだ価値観などを組み替えて、一人の人間として自我を確立することにありますが、その過程では当然、親子間の葛藤が大きくなります。かつてに比べれば、現代では親子間の葛藤が目立つケースは減っていますが、それでも多くの子どもたちは、だんだん親の言うことを聞かなくなり、洋服や趣味など些細なことで親の言葉に苛立つ姿を見せるようになってきます。家族との約束よりも友だちとの約束の優先度のほうが高くなり、家族との会話もそこそこにLINEなどで友だちとの会話を楽しむようになります。

その一方で、思春期においては友だち関係も大きく変化してきます。クラスのみんなが友だちだったそれまでと違い、同じ行動・同じ考えが重要視される集団をつくりますが、このような同調性についていくことに疲れてしまう子どもも少なくありません。

さらに、思春期には、小学校から中学校へと学校環境も変化し、周囲から求められる役割も大きく変化します。そのなかで、子どもたちはしばしば勉強につまずいたり、新しい人間関係につまずいたりします。学校は子どもたちにとって、安心して友だちなどとつながることができる大きな居場所の一つですので、そこでのつまずきはメンタルヘルスのリスクともなります。

「学校以外にも居場所ならたくさんある」と言う大人の方もいるかもしれませんが、それは大人には家庭、大学や高校のコミュニティ、趣味のサークルなど、たくさんの仲間とつながる居場所があるからでしょう。けれども子どもにとっては、安心して誰かとつながることができる居場所は学校や家庭くらいであることがほとんどです。そのため、思春期を取り巻く変化につまずいた子どもたちが、SNSやオンラインゲームなどの世界につながりを求めることも珍しくありません。「それは危ない」と警鐘を鳴らすことは、本質的にはあまりよい効果をもたらさないでしょう。なぜなら、そこにつながりたいと考える子どもたち、あるいはつながりを求めざるを得ない子どもたちの気持ちを無視しているからです。

本書では、そのような「つながる気持ち」の背景やそのゆくえについて、事例を読み解きながら考えていこうと思います。

目 次

I 「つながる気持ち」のゆくえ

第1章 「生きているのがつらい」とSNSでつぶやく子どもたち

子どもの居場所とSNS
友だちというつながりと子どもの生きづらさ
「死にたい」気持ちはどこから来るんだろう?
つながりを求めるSNS
[事例]SNSで「生きるのがつらい」とつぶやくカリンさん
SNSにつぶやかれる気持ち
「生きているのがつらい」と目の前の子どもが語るとき
コラム1 SNSと自殺

第2章 YouTuberやeスポーツプレイヤーになりたいと語る子どもたち

子どもたちは大人になったら何になりたいんだろう?
YouTubeというメディア
なぜ子どもたちは「YouTuberになりたい」のか?
eスポーツという文化──なぜeスポーツプレイヤーは憧れの的なのか?
「自分らしさ」を仕事にしたい
子どもたちの試行錯誤を見守る
[事例]「eスポーツでプロになる」と語るカナタ君
子どもがYouTuberやeスポーツプレイヤーになりたいと語るとき

第3章 小説やイラストなどの創作活動でつながる子どもたち

創作活動と作品を投稿するSNS
学校に行きづらいこととアイデンティティの危機
「キャラ」を失う不安
学校に行きづらいことと創作活動、SNS
[事例]学校に行っている意味がわからなくなったリュウタ君
小説投稿サイトという居場所
何者かにならなくても、自分が認められる世界との出会い

第4章 ネットのなかでつながり、恋をする子どもたち

ネット上の出会い
ネットで恋愛をする子どもたち
SNSで大人が心配なこと
SNS上の親しい他人
現実が苦しい子どもにとってのSNSという居場所
SNSでの「出会い」に対して、大人ができることは?
[事例]SNSでつながり、恋をするフウカさん
SNSと恋愛と居場所
コラム2 SNSやネットを使い始めるのは早いほうがいい? 遅いほうがいい?

II 不登校とその背景

第5章 ゲームを取り上げると暴れてしまう子どもたち

ゲームをめぐる現状
ゲームはどうして面白いんだろう?
ゲームとリアルの人間関係
ゲームの世界は居場所の色彩を帯びる
ゲームを取り上げざるを得なかった親の心情
[事例]ゲームにのめり込んで学校に行かないレン君
ゲームをめぐって親子が対立するとき

第6章 朝、起きられない子どもたち

不登校と睡眠
不登校の経過
[事例]「朝、起きられない」から学校に行けないと訴えたライム君
わかりやすい理由としての「朝、起きられない」
なぜ、不登校の子どもは「朝、起きられない」のか?

第7章 SNSやネットでのいじめに思い悩む子どもたち

現代におけるいじめ
SNSやネットにおけるいじめ
[事例]いじめを受けクラスで孤立してしまったカホさん
「誰が書き込んだか」よりも傷ついた本人の安心を
コラム3 SNSやネットでのいじめに対して大人ができること

III ゲームやネットにお金を使ってしまうとき

第8章 オンラインゲームにお金を使う子どもたち

基本プレイ無料ゲームの登場前夜
基本プレイ無料ゲームの登場
オンラインゲームの課金でできること
オンラインゲームと「ガチャ」
[事例]オンラインゲームにお金を使いすぎてしまったキリト君
オンラインの居場所と現実の居場所
ガチャにお金を使いすぎてしまうとき

第9章 ライブ配信でお金を使う子どもたち

ライブ配信の世界
子どもたちはどうしてライブ配信を視聴しているんだろう?
配信者と視聴者の関係
ライブ配信における「投げ銭」とそこに込められる気持ち
[事例]配信者に「嫌われちゃったかも」と悩むセイ君
「推したい」気持ちと「つながりたい」気持ちのあいだで
子どもたちが「投げ銭」をしたいと語るとき
コラム4 VTuberという文化

IV 発達障害とゲーム・SNSの世界

第10章 自閉スペクトラム症の子どもたちとSNS

ASDと思春期の友だち関係
ASDと選好性
ASDの子どもとCMC
趣味でつながるSNS
[事例]友だちがほしくてお金を配ってしまったタケル君
ASDの子どもとSNSという居場所

第11章 自閉スペクトラム症の子どもたちとゲームの世界

ASDの子どもたちの趣味や余暇活動としてのゲーム
ASDとゲーム行動症
ASDの子どもたちがゲームの世界で悩むこと
大好きなものが肯定される世界を求めて
[事例]「僕には友だちがいない。ずっと一人」と語ったコウキ君
ASDの子どもたちの友だち関係の広がり

第12章 注意欠如・多動症の子どもたちとゲームの世界

ADHDの子どもたちとゲームの世界
ADHDの子どもたちに起こりやすいゲームの問題
ADHDとネットやゲームへの依存
[事例]ゲームをめぐって家族と対立してしまったリョウ君
よい行動を引き出すコミュニケーション
ゲームと代替行動
コラム5 大人と子どもでつくるゲームやネットをめぐる約束ごと
コラム6 家族の協力が得られにくいとき

終章 子どもたちの「つながる気持ち」と居場所

リアルに居場所のある子どもたちの「つながる気持ち」
リアルに居場所のない子どもたちの「つながる気持ち」
オンラインの居場所が私たちの居場所と地続きになるために
「何者かになりたい」気持ちのゆくえ

おわりに
引用文献

書誌情報