個人投資家だって「プロ」になりたい!ーー特定投資家制度の再検討(特集:これからの投資の話をしよう)(林孝宗)

特集から(法学セミナー)| 2024.07.12
毎月、月刊「法学セミナー」より、特集の一部をご紹介します。

(毎月中旬更新予定)

◆この記事は「法学セミナー」835号(2024年8月号)に掲載されているものです。◆

特集:これからの投資の話をしよう

「貯蓄から投資へ」の掛け声のもと資産形成に関心が集まっている。投資にまつわる法的知識とそこでの問題・課題を検討する。

――編集部

1 はじめに

日本証券業協会が毎年公表している報告書によると、個人投資家の数は2021年まで8年連続で増加傾向となっている1)。あたりまえであるが、個人投資家といってもさまざまであり、各自が有している専門的知識や経験などにも偏りがある。そのため、個人投資家が許容できるリスクに応じて金融商品を購入できるようにすることが、投資家保護につながり、証券市場も適切に機能することとなる。

定価:税込 1,540円(本体価格 1,400円)

金融商品取引法(以下、「金商法」という。)は、一定の基準によってプロの投資家である特定投資家と一般投資家(法文上は「特定投資家以外の顧客」という2)。)に区分し、投資勧誘に関する規制を緩和する特定投資家制度を採用している。しかし、個人投資家の中で、特定投資家に移行できる一般投資家は約2万人いると推計されているにもかかわらず、特定投資家に移行した者は2020年末時点で92名しかいないことが明らかとなっている3)

個人投資家が特定投資家に移行しない理由は必ずしも明確ではないが、特定投資家制度による投資家区分が不十分であり、投資家が各自のリスク許容度に応じて金融商品を購入できていない可能性がある。これは、そもそも投資家区分と金融商品取引業者の行為規制が結びついている制度設計自体に問題があるようにも思われる。

そこで、本稿では、個人投資家の側面から、特定投資家制度を取り上げ、金商法上の投資家区分を再検討し、今後の課題を探っていくことにする。本特集のテーマである「投資」に興味のある本誌読者にとっても、個人投資家がどのような形で法的に区分され保護を受けているかを知ることは意味があるだろう。

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脚注   [ + ]

1. 日本証券業協会「個人株主の動向について」(2022年)6頁。
2. 金商法上、「一般投資家」という用語は存在しないが、本稿では、便宜的に「一般投資家」という用語を「特定投資家以外の顧客」という意味で用いることにする。
3. 金融審議会市場制度ワーキング・グループ第二次報告「コロナ後を見据えた魅力ある資本市場の構築に向けて」(2021年)3頁。