(第76回)税法の専門性と租税法律主義(長島弘)
【判例時報社提供】
(毎月1回掲載予定)
みずほ銀行CFC事件
1 租税特別措置法施行令(平成29年政令第114号による改正前のもの)39条の16第1項を適用することができないとした原審の判断に違法があるとされた事例
2 増額更正処分後に国税通則法23条1項の規定による更正の請求をし、更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けた者は、当該通知処分の取消しを求める訴えの利益を有するか(積極)最高裁判所令和5年11月6日第二小法廷判決
【判例時報2589号56頁】
本件事案は、X銀行がタックスヘイブンに設立した子会社の所得(これを「適用対象金額」という)を、CFC税制(軽課税国にある子会社の所得を、親会社の所得に合算して課税する制度)に基づきX銀行の所得に合算すべきとした事案である。その子会社は投資家に対して優先出資証券を発行し(X銀行が株式として払い込んだ額の約100倍の金額)、投資家から集めた資金をX銀行に貸付け銀行から利息を受け取ったことにより計算上の所得はあるが、この優先出資証券を投資家に償還した際に配当としてその利息相当分を支払っていることから、その子会社には税を全て支払うための資金は残っていなかった。
またこのスキームは、国際決済銀行として要求されたバーゼル規制に対応して自己資本比率を高めるために行ったものであって、租税回避としてなされたものではないという認定は、第一審から最高裁まで一貫してなされている。
そしてこの適用対象金額の計算は、その租税特別措置法66条の6第1項に「当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとしてその株式等(株式又は出資をいう。)の請求権(剰余金の配当等、財産の分配その他の経済的な利益の給付を請求する権利をいう。)の内容を勘案して政令で定めるところにより計算」と規定しているところ、これを受けて規定された政令は、子会社の事業年度末の状況で判断するように規定されている。そうであると法律が「株式等の数に対応するものとしてその株式等(略)の請求権(略)の内容を勘案して」政令で定めるように委任しているのと齟齬をきたす結果になることが、租税法律主義の点から問題とされたところ、判決は政令規定の合理性や、納税者側の回避可能性等にも言及しながらも「優れて技術的かつ細目的な事項であるため……内閣の専門技術的な裁量に委ねられている」としていわば「合法性の推定」ともいうべき姿勢を判示し、政令規定に問題はないとして、課税処分を適法と判断している。
租税法律主義は、国民が自らに課す税は、自らが選任した議員により制定された法律によってその要件は定められるべきというものである(憲法84条及び30条。なお憲法30条もその納税義務は、憲法29条の例外としてであるから「法律の定めるところにより」という制約がある)。従って政令による課税要件を規定しえるのは、法律により委任がある場合に限られる(内閣法11条参照)。そしてこの委任は個別的、具体的でなければならず、政令の内容は、委任の範囲に限られるものである。そしてそうである以上、当然、法律の委任に合致した内容の政令でなければならないのである。
かつて最高裁判所昭和60年3月27日大法廷判決(判例時報1149号30頁)において、「租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべき」と判示されたことにより、憲法14条との関係においても租税立法においては「合憲性の推定」が働くとされた。とはいえ、それは立法府の制定した法律に対するものである。税法は確かに専門的、技術的な面があるが、最近にも政令が法律の委任の範囲を逸脱するものと判断された最高裁判所令和3年3月11日判決(判例時報2501号61頁)もある中で、「合法性の推定」ともいうべき判示が最高裁でなされたことは、租税法律主義の点から大きな問題があるものと思われる。
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産能短期大学専任講師、立正大学法学部准教授を経て現職。
著書に『税金のすべてがわかる 現代税法入門塾 (第12版) 』(分担執筆、清文社、2024年)、『インセンティブ報酬の会計と税務』(分担執筆、白桃書房、2022年)、『課税所得計算の形成と展開』(分担執筆、中央経済社、2022年)、『新版税務会計学辞典』(分担執筆、税務経理協会、2017年)、『租税法判例実務解説』(分担執筆、信山社、2011年)など。