能登半島地震に見る災害ボランティアの課題──「受援力」再考(大脇成昭)

法律時評(法律時報)| 2024.08.27
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◆この記事は「法律時報」96巻10号(2024年9月号)に掲載されているものです。◆

1 ボランティア抑制の呼びかけ

定価:税込 2,090円(本体価格 1,900円)

大規模自然災害の復旧段階において、いまや欠かせない存在となった災害ボランティア。しかし2024年元日に発生した能登半島地震に際しては、その人手不足がクローズアップされた。要因のひとつと指摘されたのが、個人が被災地へ赴くことを抑制する呼びかけである(石川県の災害対策本部会議での同年1月5日の知事発言など)。そこから「行かないことが支援」などの言葉も広がり、その後、ボランティアが集まりにくい状況を長期化させたとの指摘もなされた。またさらに、このような行政による「規制」が、ボランティア本来の特性である自主性・自律性を失わせるとの批判もあった。

しかしこの抑制の呼びかけには当然、それなりの理由があった。すなわち能登地域の道路が随所で寸断され、救援に向かう人員や、緊急に必要とされる物資の輸送を優先させる必要があった。それゆえに、当初の呼びかけが一概に誤りだったとはいえない。

もっとも、特殊な知識や経験、各種の装備を備えた専門性の高いボランティア団体の現地入りまで抑制したとの批判もある。しかしこの点は、特殊な技能を有するスタッフを擁して、機材や食料をはじめ自己完結的な装備を携える「専門ボランティア」と、個人が自主的に参加する「一般ボランティア」の区別が必要である。すなわち前者については早期に現地入りを認め、後者については条件が整ってから受け入れを開始することが有効である1)。両者の区別と個々の「交通整理」は容易ではないものの、一般論としては、行政によるボランティアに対するコントロールそれ自体は必要であるといえる2)

2 「受援力」の自力整備の限界

加えて、今回の震災は、災害ボランティアの受け入れ体制に関して、重要な問題を提起した。それは、ボランティアをはじめとする各種の支援を受け入れる「受援力」の担い手が絶対的に不足するケースにおいて、どのように対応するかという点である。受援力という用語は近年、子育て支援など他の分野でも用いられるが、災害対応の文脈でいえば、物資や人員等の、支援を受ける側の環境整備や知見の集積などを指す。東日本大震災前年の2010年4月に内閣府(防災担当)が発刊したパンフレット「防災ボランティア活動の多様な支援活動を受け入れる─地域の『受援力』を高めるために」を契機に広まった言葉であるといわれている。

能登半島地震の被災地に見られるように、高齢化や人口の減少に伴って受援力の担い手がはじめから不足しがちな地域では、たとえ平時に備えをしていたとしても、災害の発生時にそれが機能しないこととなる。このようなケースに直面して、これまで以上に、必要な時に必要な地域へと、受援力の担い手を即座に派遣することの必要性が高まっている。すなわち、被災地の自前の体制を補完するための、緊急の応援体制の構築である。能登半島地震では、全国社会福祉協議会が迅速に職員派遣を行ったようであるが、さらに中間支援団体や、NPOを支援するNPOなども含めて、全国的なプッシュ型人員支援の仕組みを検討する必要がある。受援力の整備に関する模索は、まだ終わらない。

3 災害発生時の広域的人員派遣の調整システム

人的な広域支援の仕組みは、これまで分野ごとに様々なものが構築されてきた。DMAT(災害派遣医療チーム)、DHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)、DPAT(災害派遣精神医療チーム)といった医療分野の各専門チームの広域派遣については、国(厚生労働省)による調整の仕組みがある。また、水道の復旧に向けた全国各地からの市町村等(水道事業者)による緊急の応援も、すでに定着している。これについては個々の地方公共団体間で災害時相互応援協定が締結されているほか、より広域的な相互応援の体制が、日本水道協会などによって構築・運用されている。さらに、被災建築物応急危険度判定士は専門ボランティアに位置付けられるものであるが、その広域的な派遣については、国(国土交通省)やURなどを通じて全国的な調整が行われており、発災直後から迅速な活動がなされるようになっている。

受援力の担い手を迅速に派遣するシステムの設計に際しては、これらの様々な分野で機能している既存の仕組みが参考になると思われる。

 ボランティアセンターの設置と市町村の関係

受援力の具体化として特に重要なものが、ボランティアセンター(以下「VC」という)の設置・運営である。この必須の災害対応活動については一般的に、市町村など行政主体が自ら直接に行うものではなく、職員を派遣することなどはあっても、あくまで行政が「間接的に」かかわるものと位置付けられている3)このことは、避難所の設置・開設などと比較すれば顕著に異なる。

すなわちほとんどの場合VCについては、市町村ではなく、社会福祉協議会(以下「社協」という)が単独の(又は主要な)設置主体となっている。ただし各市町村の地域防災計画において社協がVCを設置することが明記され、市町村は社協とあらかじめその設置について協定を締結しておくという形が多くの場合にとられている。

国は以前から、この形の体制整備を促してきた。例えば「災害ボランティアセンターの設置・運営等にかかる社会福祉協議会等との連携について(依頼)」(2021年9月6日内閣府政策統括官〔防災担当〕付参事官事務連絡【PDF】)では、ボランティアセンターの設置・運営に関して、平時から市区町村が社協等との間で協定等を締結し、「役割分担」を明確にしておくことを求めた。そして国の防災基本計画にも、2023年5月の一部修正で、ここにいう「役割分担」があらためて明記された(第2編「各災害に共通する対策編」第1章「災害予防」第3節「国民の防災活動の推進」)。すなわち市町村は、災害VCを運営する市町村社協等との「役割分担」などをあらかじめ定めるよう努めるものとすると規定した。その上で特に災害VCの設置予定場所については、市町村地域防災計画に明記すること、相互に協定を締結しておくことなどが求められた。

 社協頼みがもたらす機能不全

以上のようなことを前提に、全国各地の社協では平時からVCの設置についての準備がなされてきた。ところが能登半島地震では、ボランティア受付窓口の県による一元化などが行われたものの、ボランティアの受入れがうまくいかない状況も見られた。その一因は、マンパワーの不足に直面する社協への過重負担にある。都市部から遠く離れた地域では、社協の担い手がはじめから限られている。そこへ大規模災害の発生で水道をはじめとするライフラインが寸断されると、社協の職員も一定数は被災地域からの退避を余儀なくされることが考えられる。そうなると、VCの運営を担うべき社協が、本来予定されている役割を、災害時において十分に発揮できなくなるのは、当然である。国がいわば社協頼みの体制構築を進めてきたことは前述のとおりであるが、実は懸念も共有されていたようにも見える4)。また同様の観点から、社協によるVCの運営というすでに確立された方式自体を見直す余地があるとの指摘もなされていたところである5)

社協頼みで受援力を下支えするシステムが機能不全に陥る事態は、全国どこでも起こりうるものであり、今回の能登半島地震は、地理的状況に起因する固有の交通事情などを差し引いてもなお、そのことを顕在化させたといえる。

視点を変えればこの問題、災害VCに限った話ではない。例えば、新型コロナ対策としての経済的支援策の中で、個人向け融資制度への需要が激増した時期があったが、その最前線の窓口を担ったのは社協であった6)。そのときも、社協に過度の負荷がかかり、対応が困難になった面がある。

社協を非常時における行政対応の基盤に位置付ける背景には、地域の実情を熟知し、様々な機関と連携しつつ地域に根ざしたきめ細かな対応をする主体として最適であるという考えがある7)。このこと自体は、社協の長所ないし特性を考えると、正しいといえる。しかし問題は、このこととトレード・オフの関係で、行政の関与が明らかに後退することである。

換言すれば、重要な行政分野における社協任せという体制自体に構造的な問題があるともいえる。そもそも社協は社会福祉法に位置付けられる存在であるものの、性質は私的組織であり(もちろん行政機関ではない)、また必置の組織でもない。しかし役員就任の定め(社会福祉法109条5項)などから、関係行政庁との密接なかかわりが予定されている。そのような複合的な性質を有する組織8)を、必要不可欠な行政活動の基盤インフラと位置付けることが、少なからぬメリットと同時に、僅かな歪みを内在化させている。そしてこの歪みは、社会における「非常時」に繰り返し顕在化する。過去の歴史的経緯とは切り離して、このような体制の点検や検証、そして必要に応じた制度転換の時期が到来しているともいえる。

6 今後に向けて

広義の非常時には特定分野の行政需要が急増し、国や地方公共団体のみで全てに対応することができなくなる。その場合に、外部の人的リソースに頼ることには合理性がある。しかしそこから同時に、行政の関与が薄まることの弊害は小さくない。あくまで人手不足を補填するために、官と民(公と私)の中間的な性質の団体に役割期待をすることは否定されないものの、行政の基盤的な役割ないし責任を明確にしておくことが必要である。ここを明確にしないままに「役割分担」の決定を丸投げすることは、行政責任を不当に縮減することへと繋がる。

近年各地で、災害ボランティアを促進する条例を制定する動きがある。その目的や内容は様々であるが、災害ボランティアを受け入れ、調整し、支援する活動は、行政活動であることを大前提に据えることが重要である。民間の活動と位置付けられるものを行政が側面支援するという意識が強い限り、非常時に機能不全が繰り返される。いまや災害ボランティアは、被災者の健康管理や住まいの確保、水道・道路等のライフライン復旧などと同列に、行政が責任を持って対応すべき、災害対応の必須事項・標準装備であるとの認識が重要であろう。

(おおわき・しげあき 九州大学教授)

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脚注   [ + ]

1. 実際に、JVOAD(全国災害ボランティア支援団体ネットワーク)による能登半島地震支援にかかる活動情報を見ると、発災直後のかなり早い段階から専門ボランティアとして多くの支援団体が現地入りし、活動していたことがうかがえる。
2. 専門ボランティアの位置付けや、ボランティアに対する指揮命令の必要性・意義などについて参照、大脇成昭「ボランティアによる災害時の緊急対応活動と法的規律」鈴木庸夫編『大規模震災と行政活動』(日本評論社、2015年)159頁以下。
3. ボランティア活動にかかる環境整備の具体策(参照、『令和6年版防災白書』〔日経出版、2024年〕86頁)を見ると、国(内閣府)においても、ボランティアと関連する被災者支援の担い手は、基本的に民間であると考えられているようである。
4. 内閣府防災担当「防災における行政のNPO・ボランティア等との連携・協働ガイドブック」【PDF】(2018年)18頁では「市町村の社会福祉協議会は人員・予算とも必ずしも潤沢にあるわけではないため、多数のボランティアの対応を一手に引き受ける災害VCの運営により社会福祉協議会が本来の福祉サービス提供者としての強みを発揮できなくなっている現状もあり、社会福祉協議会の負担を軽減する災害VC運営のあり方も課題となっています。」と記されていた。
5. 田中綾子「大規模災害時の受援力」NERC Journal 16巻1号(2017年)37頁は、社協による受援力の限界などを根拠に、そのように指摘する。
6. この融資制度につき参照、大脇成昭「コロナ禍における再分配施策の多面性に関する一考察」行政法研究55号(2024年)84頁。
7. 被災者支援との関係で参照、山下弘彦著、災害ボランティア活動ブックレット編集委員会編『被災地に寄り添う災害ボランティアセンター運営』(全国社会福祉協議会、2021年)19頁。
8. 社協の法的性質の多面性や、行政とのかかわりなどを詳細に分析するものとして参照、太田匡彦「社会福祉法における社会福祉協議会」橋本宏子ほか編著『社会福祉協議会の実態と展望』(日本評論社、2015年)139頁以下。