『栄光の松竹歌劇団史—憧れの星座たちが歩んだ軌跡』(著:小針侑起)

一冊散策| 2024.10.02
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

あとがき

私は一九八七(昭和六二)年生まれなので、実際の国際劇場はおろか日劇も見たことがない。なんとか閉場間際の新宿コマ劇場やシアターアプルには何度か足を運ぶことができた程度である。

しかし、幼いころから昭和の映画や歌謡曲に親しむ中で、『リンゴの唄』の並木路子さんが松竹歌劇団の出身だったことは知っていたし、なにより美空ひばりさんが少女時代に出演された映画には川路龍子さんや曙ゆりさん、小月冴子さんなどの出演があったことから、松竹歌劇団の名やスターの方々のことを当然のように認知して育った。そして15歳のときには、まだお元気でいらした水の江瀧子さんにファンレターを出したこともあり、そのときにいただいたサイン入りのプロマイドは今も一番の宝物である。

その後、私は芸能史をたどる著述家としての道を歩み始めたが、とにかく松竹歌劇団史に関する書籍が『松竹歌劇団50周年記念写真集 レビューと共に半世紀』(松竹歌劇団・編)や『タアキイ』(中山千夏・著)などのほかに、ほとんどないことに悩まされた。近代日本の芸能史の中で大きな存在であったはずの松竹歌劇団史が客観的に記録されていないことは、日本の芸能史のなかの大きな欠落であり、これは日頃から松竹歌劇団OGの方々にお世話になっている私が記録しておかなければならないと、と心を決めて筆を執った次第である。

執筆を行ううえで松竹歌劇団が日本の芸能史に与えた影響がどれだけ大きかったかを痛感し、すべての作品、スタッフ、生徒について触れたかったが、紙数の制限があるなかで劇団の主要事項、主に松竹座、国際劇場および東京における公演を中心にしか取り上げられず、海外公演や地方公演にはわずかに触れるだけとなってしまったことは残念であった。

ことに紙数や執筆期間の関係上、国際劇場閉場以降の松竹歌劇団公演について記載することができなかったのは痛恨の極みであり、多くの読者の方が不満を抱くことと思う。

しかし今後も筆者のライフワークとして松竹歌劇団について追いかけていくことは決心しており、必ず別の機会で後期の松竹歌劇団について執筆させていただけたらと考えている。

本書は特別に、戦後SKD黄金期を支えた娘役の幹部スターである小柳久子さん、国際劇場の最後を飾った男役大幹部スターの春日宏美さん、お二人のインタビューを掲載することができた。この偉大なスターお二人の在団時期は入れ替わるように重なっていないため、戦後SKDの再開から国際劇場の閉場までの歴史を網羅的に穴埋めすることができたのは幸福としか言いようがない。

このほか、「松竹歌劇団」の劇団名を書名に使用することなどを許可くださった松竹株式会社様、写真掲載について許可くださった元松竹歌劇団OGの方々、そして私の活動をご理解くださり、いろいろと面倒をおかけした日本評論社の入江孝成さんには心より感謝を申し上げたい。

また、執筆構想の以前から宝塚歌劇団、日劇ダンシングチームの OG・OB の方々から当時のレビュー界の状況を伺ってきたことも、本書の執筆にどれだけ役に立ったかわからない。

末筆ではありますが本書にご協力いただいた皆様、ありがとうございました。

二〇二四年八月十五日 小針侑起

目次

  • 第一章 松竹楽劇部の創設
    • 芸能の聖地・浅草の一角で/注目を浴びた東京踊り/当時の浅草のにぎわい/飛躍する松竹楽劇部/初めての歌舞伎座公演/【コラム】大阪松竹楽劇部のこと
  • 第二章 東京名物となった松竹楽劇部
    • 若さ溢れるレビューの青春/浅草松竹座がレビュー劇場に/男装の麗人・水の江瀧子の人気沸騰/歌手陣の強化/ライバル宝塚少女歌劇団/【コラム】ファンクラブのこと
  • 第三章 松竹少女歌劇黄金時代の到来
    • 華ひらくレビューの公演/世間を騒然とさせた桃色争議/『タンゴ・ローザ』からの出発/レビュー全盛時代来る/東洋一の大劇場・国際劇場の落成/【コラム】松竹楽劇団のこと
  • 第四章 苦境に立った戦時下のレビュー
    • 改訂された『櫻咲く國』/日々色濃くなる戦争の影/決戦下の松竹少女歌劇団/苦難の松竹芸能本部女子挺身隊時代/東京大空襲で国際劇場は半壊/【コラム】ブギ旋風巻き起こる
  • 第五章 戦後復興とともに歩んだ松竹歌劇団
    • 焼け野原からの再出発/戦後の待遇改善要求/国際劇場の新装開場「ラッキイ・スタート」/戦後復興と歌劇の再興/『リオ・グランデ』の再演と草笛光子の抜擢/【インタビュー】小柳久子
  • 第六章 世界に羽ばたく松竹歌劇団
    • さよならターキー/戦後初の海外公演となった第一回東南アジア公演/続々と登場する次世代スターたち/浅草から「世界のSKD」へ/高度経済成長の時代のなかで/【コラム】美空ひばりと浅草国際劇場
  • 第七章 伝説への道を歩む松竹歌劇団
    • フレッシュな時代の到来/盛んになる海外公演/時代の波とレビュー/意欲的な公演の数々/国際劇場のさよなら公演/【インタビュー】春日宏美

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