(第10回)多数決的共和国としての私
プロ精神科医あるあるノート(兼本浩祐)| 2024.11.14
外来のバックヤード、あるいは飲み会などフォーマルでない場で、臨床のできる精神科医と話していると、ある共通した認識を備えていると感じることがあります。こうした「プロの精神科医」ならではの「あるある」、言い換えれば教科書には載らないような暗黙知(あるいは逆に認識フレームの罠という場合もあるかもしれません)を臨床風景からあぶり出し、スケッチしていくつもりです。
(毎月中旬更新予定)
「あなたは本当はこう思っているんでしょう」とか、「あなたの本音はどうなの」とか、こう聞かれて戸惑うことはないでしょうか。そもそも私たちの行動に本当にひとつの動機がいつもあるのかどうか。たとえば「私のことが好きなの?」と問われて、100%混じり気なしに好きだと言えることがどれくらいあるのでしょうか。「好きだよ」と言った途端にどこか嘘くさく感じられてしまうのは、恋に恋しているようなのぼせあがった状態のときはさておき、「好きだ」と言うと好きでないところがあるし、「好きでない」と言うと好きなところがあるし、どちらを答えても正確ではないからでしょう。だから、好きか嫌いかの二者択一をあまりにも迫ってくるような相手に対しては、それまでは案外ほんのりと好きだったとしても、どこかしまいには疎ましく思うようになってしまうこともあるかもしれません。
兼本浩祐(かねもと・こうすけ)
中部PNESリサーチセンター所長。愛知医科大学精神神経科前教授。京都大学医学部卒業。専門は精神病理学、臨床てんかん学。『てんかん学ハンドブック』第4版、『精神科医はそのときどう考えるか』(共に医学書院)、『普通という異常』(講談社現代新書)など著書多数。
中部PNESリサーチセンター所長。愛知医科大学精神神経科前教授。京都大学医学部卒業。専門は精神病理学、臨床てんかん学。『てんかん学ハンドブック』第4版、『精神科医はそのときどう考えるか』(共に医学書院)、『普通という異常』(講談社現代新書)など著書多数。