大麻取締法改正を考える(園田寿)

特集/大麻が麻薬になる日―薬物(ドラッグ)は「悪」? 合法と違法の境界線とは?―| 2024.10.21
日本を含めて大麻に関する世界的な問題意識の高まりは、20世紀後半の現象です。しかし、大麻に関する科学的な研究が深まったのはここ数十年のことで、当時の犯罪化の根拠については科学性は希薄、むしろ政治的意味合いが濃厚でした。「ダメ。ゼッタイ。」の有名なキャッチフレーズにしても、大麻がなぜダメなのか、その根拠があいまいなままです。2023年に可決された改正大麻取締法の施行(12月12日)が目前に迫る今、改めて大麻をはじめとした違法薬物と依存症、そして薬物政策について学び、日本の薬物政策の課題と影響、そしてこれからの社会の在り方について考えてみませんか。
第1回は、今回の法改正を読み解くとともに、これまでの世界的な薬物政策の変遷をたどり、日本の薬物政策の方向性を考えます。

1 はじめに

昨年(2023年)12月の改正で、大麻取締法の名前が六法全書から消えた。といっても、大麻に対する縛りが解けて、大麻が合法化されたのではない。大麻に含まれている精神作用物質の一つであり、依存性のあるテトラヒドロカンナビノール(THC)が、麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)における「麻薬」に分類され、大麻取締法が「大麻草の栽培の規制に関する法律」という名称の法律に生まれ変わったのである。重要な改正点は次の3点である。

第一は、医療用大麻の解禁。大麻(日本では昔から「麻」と呼ばれて重宝されてきた植物)に医療用大麻という特別な種類があるわけではなく、大麻に含まれている依存性のない化学物質(CBD=カンナビジオール)が難治性のてんかん治療に効果があることが認められるようになったのである。そこで、THCだけを区別して規制する必要が生じた。

第二に、大麻取締法は、大麻草の特定の部位を規制するいわゆる部位規制を実施してきた(同法第1条)。具体的には、主に大麻草の花穂(かすい)や葉の部分がこれまでの規制対象であった。これらの部位にTHCが多く含まれるためである。今回、この部位規制から、大麻を麻向法における「麻薬」に組込んで、THCを直接規制する成分規制へと規制の仕組みが大きく変更された。

第三に、大麻規制が麻向法による成分規制に移行したことによって、今まで大麻取締法に処罰規定が存在しなかった大麻使用行為が麻向法における「麻薬施用(しよう)罪」(7年以下の懲役)として処罰されることになった(麻向法第66条の2)。多幸感や陶酔感、開放感をもたらすTHCは、依存や乱用の危険があるというのがその理由である。今回の改正では、この点がもっとも大きな争点となった。

主な改正点を表にまとめると、次の通りである。

大麻取締法 改正法(麻向法)
[所持、譲渡、譲受] [製剤、小分け、譲渡、譲受、所持]
単純:5年以下の懲役
営利:7年以下の懲役、200万円以下の罰金(併科あり)
単純:7年以下の懲役(麻向法66条1項)
営利:1年以上10年以下の懲役、300万円以下の罰金の併科あり(麻向法66条2項)
[輸入、輸出、栽培]
単純:7年以下の懲役
営利:10年以下の懲役、300万円以下の罰金の併科あり
 [製造、輸入、輸出]
単純:1年以上10年以下の懲役
営利:1年以上の有期懲役、500万円以下の罰金の併科あり(麻向法65条1項)
[栽培]
単純:7年以下の懲役
営利:1年以上10年以下の懲役、300万円以下の罰金の併科あり(麻向法24条の2)
使用罪(なし) 麻薬施用罪7年以下の懲役(麻向法66条の2)

わが国で大麻取締法を支えてきたのは、(1) 大麻には薬効がない、(2) 大麻には依存性があり乱用の危険性が高い、(3) 薬物の乱用については懲罰的断薬が有効であり、刑罰が薬物依存症治療のきっかけを与える、という3つの主張である。今回、第一の点について知見が改められた。これには異論はない。しかし懲罰による断薬が乱用を抑え、依存症治療のきっかけになるという考えは、大麻が「麻薬」に組込まれたことによっていっそう強化されている。これについては、大麻事犯の不当な「重罰化」以外の言葉は思いつかない。

2 大麻事犯の重罰化を考えるためのクエスチョン

(1) 大麻の害悪性とは何か?

薬物摂取は悪い習慣に移行する可能性がある。薬物を止めたいと思っても、その使用を断ち切るのが難しくなる。これが、薬物摂取の最も恐ろしい側面のひとつである。そして、一部の精神作用薬物は、この悪い習慣を作り出す傾向が強い。ただし、薬物常用者のほとんどが薬物依存に至ることはなく、その割合は薬物によって異なる。アメリカ国立薬物乱用研究所(NIDA)の研究1)によると、大麻の場合は約10%であり、コカインやヘロインは約30%、アルコールは15~25%、タバコは約30%と推定されている。意外な数字かもしれないが、酒好きのほとんどがアルコール依存症になるわけではないことは、経験的にも理解されるであろう。一度薬物に手を出すと抜けられなくなるというキャンペーンは、明らかに不適切な、脅しに近い誇張である。

「依存」(addiction)という言葉は、厳密には「身体依存」と「精神依存」という2つの異なる意味で使われている。

身体依存とは、ある薬物を一定期間使用した後、その薬物の服用を止めた使用者が不快感、あるいはそれ以上の症状を経験する場合である。たとえば発汗や手の震え、発話困難など(離脱症状)である。離脱症状が劇的で、時には致命的な場合もある。しかし大麻の場合は、依存になったとしても身体依存が非常に軽いことが特徴である。

精神依存とは、(1) 薬物を摂取する頻度や量に対する自発的コントロールの低下、とくに(2) 渇望(薬物使用をやめようとする努力を複雑にする持続的で侵入的な考え)があること、(3) 薬物を入手する努力や薬物使用に費やす時間が常用者の生活に多く占め、通常の日常的活動が混雑していくことなどを特徴とする。大麻の場合はこれが常用者の約1割に見られるにすぎず、その程度も軽い(治療の必要性は明らかに誇張されている)。大麻依存で実刑になった者が、タバコを吸えなかったことが一番辛かったという笑い話のような逸話もある。

なお、とくに若年者の場合は、長期間の大麻使用が認知能力に影響を与え、学習や情報の保持が困難になる場合があるという研究もある(多くの研究者はこれに批判的である)。

(2) 大麻はゲートウェイなのか?

ゲートウェイ仮説とは、大麻使用がヘロインや覚醒剤などのハードドラッグの使用につながるという理論である。確かに、(動物実験ではあるが)大麻がよりハードな薬物への「踏み台」になることを示唆する研究はある。大麻使用が他の違法薬物を薬理学的に受容するような脳の下地を作り、その結果、より強い薬物を使用する可能性が高くなるという。しかしアルコールとタバコにも同様の効果があることも確認されている。大麻の使用よりアルコールの使用が先行し、さらにタバコの使用が先行し、その先には炭酸飲料(カフェイン)の飲用が認められる。しかし、カフェインやタバコ、アルコールが大麻の入り口だとはだれも言わない。

全体的にはゲートウェイ仮説を支持しない研究の方が圧倒的に多い。理由は、大麻使用者がより強い薬物に手を出すことはあっても、実際にはよりハードな薬物に移行する確率がゼロに近いからである。大麻は世界で2億人以上のユーザーがいるもっとも人気のある違法薬物だといわれるが、大麻がもしもゲートウェイならば、世界はとっくのむかしにコカインやヘロインで溢れていることだろう。要は「好み」の問題なのである。

また、違法薬物の使用と暴力との関連性についても、誇張されたメディアのイメージこそが問題である。アルコールと薬理学的に誘発された暴力との関連を示す証拠は十分にあるが、違法薬物一般の暴力との関係はそれほど明確ではなく、薬物の種類によって異なる。大麻使用と暴力との間には直接的な関連はほとんどなく、むしろ大麻の薬理作用は暴力性を低下させている。また大麻は比較的安価であるため、大麻を得るために他の財産犯などに手を染めることもほとんどない。

(3) 大麻はなぜ世界で禁止されるようになったのか?

大麻はおそらく世界最古の薬草で、主に痛みや痙攣、嘔吐などの治療に使われてきたことが分かっている。しかし、大麻が娯楽薬物として怖れられるようになった経緯は複雑で政治的である。

15世紀にコロンブスがアメリカ先住民のタバコ喫煙という習慣をヨーロッパに伝えた以降も、ヨーロッパには大麻の娯楽的使用の習慣はほとんど見られなかった。ヨーロッパで栽培あるいは自生していた大麻にはTHCが少なかったからである(日本でも同じ)。

19世紀末にイギリスが植民地支配していたインドで、大麻が精神的な問題を引き起こしているのではないかと議論になったが、そのときの調査報告書(1894年)は大麻の有害性を否定した。大麻の法的地位の変化に劇的な影響を与えたのは、1930年代のアメリカの国内事情であった。

世界恐慌の直後、1933年に禁酒法の縛りが解けて財務省内にあった禁酒局が解体されることになった。局長であったハリー・アンスリンガー(Harry J. Anslinger)は、新たに設置された麻薬局(FBN)に多くの部下を引き連れてその局長に就任した。そして、新たな仕事を創った。アメリカ国民をアルコール以外の薬物から守る必要があるとの理由で、大麻(マリファナ)を喫緊の社会問題として提示し、全米で反マリファナ・キャンペーンを展開したのである。もともとアメリカの大麻喫煙は、1910年のメキシコ革命でアメリカ南西部に流れた大量のメキシコ難民が持ち込んだものであったが、世界恐慌後の経済不況の中でかれらに対する排斥運動が起こり、かれらのマリファナ喫煙の習慣がヘイトのシンボルとなったのである。

メディアはこぞって大麻の有害性を誇張し、一度手を出すと精神に異常を来たし、殺人や自殺、レイプを犯すようになると国民の恐怖を煽った。その頂点が、大麻課税法(1937年)である。この法律は、大麻の州間取引を多額の課税で規制するものであり、違反は脱税犯として取り締まられた。なお、この大麻課税法が母法となって、1948年にGHQの指示によりわが国の大麻取締法が成立したが、その背後には当時の大麻に対するアメリカ世論の影響が感じられる(大麻取締法に使用罪がなかったのも、大麻課税法が流通規制を目的とするものだったからだと思われる)。

大麻は、アンスリンガーの読みどおり、次第に抑え込まれていった。しかし、大麻はどこにでも自生している雑草であるし、ヘロインと違って組織化された密売ネットワークが背後にあるわけでもなく、彼はいっそう反マリファナ・キャンペーンにエネルギーを注いでいった。

その後、アメリカは1961年の国連麻薬単一条約の会議を主導することになる。その交渉で、大麻はコカインやアヘンと同じ有害性のカテゴリーに入れられた。世界保健機関(WHO)も大麻には(コカインやアヘンと違って)医学的価値はまったくないと宣言した。しかし、国連薬物犯罪事務所(UNODC)も追認したWHOのこの決定は、1935年に国際連盟の下で行われた非科学的な報告に基づいていたのだった(THCがイスラエルの化学者によって分離されたのは1964年のことである)。

大麻に対する科学的な認識が見直されたのは、ようやく2019年になってのことであり、WHO専門家委員会は大麻をスケジュールⅠ(薬効なし)から除外するよう勧告した。同年、国際麻薬統制委員会(INCB)は、麻薬事犯に対する死刑廃止を推奨し、個人的な使用のための薬物少量所持には懲罰ではなく治療・回復から社会への再統合といった代替策の可能性もあるとの声明を出した。そして、2020年には、国連麻薬委員会(CND)は大麻を国際条約で定められている最も危険な薬物分類(スケジュールⅣ=危険性が医療的価値を上回る)から削除する勧告を承認し、大麻の医療利用の道を開いたのであった。わが国での今回の医療用大麻のゴーサインは、この動きに対応したものである。

(4) そもそもなぜ薬物取締法があるのか?

薬物は有益に使われることもあれば、乱用されることもある。国家は、刑事法(薬物禁止法)や行政的規制、課税などの社会統制によって薬物まん延のリスクから自身を守ってきた。

このような薬物乱用防止対策は、(1) 悪い薬物使用の習慣に陥る者の割合を減らす、(2) 薬物密売による被害と不正な利得を減らすといった目的をもっている。

これは良いアイデアのように見えるが、実はこれらの目的は他の政策と緊張関係にある。例えば合法薬物に対する課税は薬物の末端価格を高めるが、それは薬物常用者を困窮させ、薬物入手のために他の犯罪に向かわせる危険性がある。

さらに薬物禁止法は、非合法市場を活気づかせるが、それは消費者に優しくない。街のドラッグストアと違って、闇で売買されている商品は内容表示がなく、あっても不正確であり、希釈され、不純物が混入している可能性が高い。有害作用のリスクが高まり、おそらく依存症のリスクも高まる。非合法市場で消費者が暴力に巻き込まれる危険性もある。

しかし、国家が薬物摂取者を依存症から守るため、あるいは薬物摂取者による危険から薬物とは無関係な生活を送っている人びとを守るため、薬物使用の犯罪化、厳しい取締り、懲罰へと至る。これは、薬物政策の深い負の側面である。

(5) 薬物取締りは有効なのか?

刑事司法は元来、犯罪の抑止、犯罪者の無力化、更生の3つのメカニズムを通じて機能している。しかし薬物の売人はともかく、薬物じたいは代替可能性が高いので、薬物の押収は刑事司法の目的との関係でいえばあまり効果的ではない。かりに売人を逮捕して10キロの違法薬物を押収したとしても、社会から10キロの薬物消費量が減るかというと、そうではない。

売人の摘発は、末端の薬物使用に抑止的な影響を与えうるが、取締りのリスクが高ければ高いほど、売人はその代償としてより多くの利益(金)を要求する。つまり、薬物取締りの強化は、薬物の流通コストを押し上げるのである。

さらに、国の薬物対策の根底には、もっとも適切で効果的な解決策は刑罰だという考えがある。「薬物使用絶対禁止」や「不寛容」を訴える広報が繰り返される。しかし問題を解決しようとする直感的な行動が、逆にその問題を刺激してより悪化させることもある。これはヒドラ・パラドックスと言われている(ヒドラとは、切り落とされる度に2つの頭が生えてくるギリシア神話に登場する怪物)。つまり、規制を外そうとする者が違法薬物の化学構造を触っているうちに、予想外のより危険な薬物ができることがある。これが「危険ドラッグ」の問題である。

また重罰化や売人の取締りは、使用者の薬物の入手を事実上困難にするが、その結果、使用者は「安全な」市販薬や処方薬に流れていく可能性もある。従来は違法薬物でしか得られなかった解放感や逃避感を、合法な薬物で代替的に得ることが可能となっているのである。近年問題になっている市販薬の過剰摂取(オーバードーズ=OD)の背景にはこのような問題もある。

(6) 強制のない薬物統制はどうか?

もしも薬物販売も薬物摂取も自由だとしたら、国家が関心を持つのは次のことである。(1) 医療目的だけでなく、非医療目的で販売される薬物にも適切なラベルを貼り、不純物の混入がないようにする、(2) 人びとに薬物の節度ある摂取を啓蒙する、(3) 薬物乱用障害からの回復を望む人びとや家族の薬物摂取によって困窮している人たちを社会的経済的にサポートする。

強制のない薬物政策の妥当性は、現在の薬物政策が薬物乱用にどれだけ有効かによる。例えば、ニコチンやアルコールといった、基本的に自由に使用されている乱用可能な薬物についてはどうだろう。この2つの薬物は、問題使用者の数でも、その結果生じる健康被害や死亡者数でも、違法薬物の合計を上回っている。

飲酒は合法であっても、規制が必要な場面はある。飲酒運転や未成年者への提供、泥酔による迷惑行為などには、十分な厳しさと法の執行を必要とする。健康リスクを伴っても喫煙は合法であるが、漸進的な課税、反喫煙のための広報、喫煙を不便なものにするための規制などが行われ、その結果喫煙人口は確実に減少してきている。これらの薬物政策は、違法薬物に対する考え方にも大いに参考になるだろう。

(7) 非刑罰化とは何か?

他国でもそうだが、今の日本の薬物政策では、ヘロインやコカイン、覚醒剤などの薬物そのものが、(医療用途は別として)禁制品とされている。違法薬物の製造・輸入、販売は重大犯罪であり、警察に検挙されれば、実刑になる可能性も高い。購入した使用者も逮捕され、投獄される危険性がある。

よく提案される代替案は、製造、密輸、販売に対する刑事罰は維持して、使用に対する刑事罰をなくすことである。通常は交通違反の反則金のような罰則は残るが、これらの政策は「非犯罪化」または「非刑罰化」と呼ばれている。

非犯罪化の論理的な問題は、禁制品を消費者が買うことを許してしまうことだ。薬物使用者が逮捕の恐怖から解放されるが、他方で禁制品の需要が増加し、反社会的集団の収入が増える可能性がある。

身体に良くない物を摂取することは、決して好ましくはないが、基本的に公衆衛生の問題である。したがって、薬物使用を処罰することの合理性は、薬物使用に対する刑罰的威嚇が社会全体における違法薬物の流通量にどれだけの影響を及ぼしうるのかということに関係してくる。使用者を刑事罰で威嚇することが消費にわずかな影響しか与えないのであれば、その事実は非犯罪化ないしは非刑罰化の根拠となる。

非合法市場を破壊するもっとも効果的な方法は、新たに合法化された薬物の消費増加という代償を社会が受け入れざるを得なくとも、薬物の流通そのものを(タバコやアルコールのように)国家が管理・規制し、薬物問題を犯罪問題ではなく、公衆衛生の観点から組み直すことだろう。あえていえば、薬物問題を解決すべき問題としてではなく、管理すべき問題として向き合うことなのである。

3 結びにかえて

今のわが国の薬物政策でもっとも憂慮すべきは、人が薬物の依存的な使用パターンを身に付けるのは人格の弱さだとしている点である。そのため、薬物に対する厳しい対応や処罰こそが薬物使用を抑止し、社会へのまん延を防ぐという懲罰的断薬主義が重要だという。同じ目線に立った警察やマスコミのプレゼンテーションの悪影響も大きい。大麻が無害だとはいわないが、誇張された「警告」は毎年何千人もの若者に犯罪者の烙印を押すことにつながっている。社会もそのラベリングを肯定的に受け止めるようになり、使用者はもちろんのこと、人びとを薬物の害から守るどころか逆効果になっている。

歴史をふり返れば、薬草、繊維、娯楽としての大麻など、さまざまな要因が今日の法的状況に関係していることが分かる。しかし今大事なのは、大麻に対する科学的な評価に基づいた有害性の判断であり、偏見とスティグマの歴史から教訓を学び、それを政策に生かすことである。国が承認した薬物と国が禁止した薬物との境界には、はたして確固たる科学的・薬理学的根拠があるのだろうか。「薬物」や「麻薬」と呼ばれているものが、政治的な理由で恣意的に禁止されている物質のリストだとすると、大麻使用重罰化の悪影響は深刻である。間違いなく最大のリスクは薬物ではなく、薬物犯罪の前科なのである。

主要参考文献

令和6年12月12日に「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」の一部が施行されます|厚生労働省
・佐藤哲彦『ドラッグの社会学―向精神物質をめぐる作法と社会秩序l』(世界思想社、2008年)
・佐藤哲彦・清野栄一・吉永嘉明『麻薬とは何か―「禁断の果実」五千年史』(新潮社、2009年)
・佐久間裕美子『真面目にマリファナの話をしよう』(文藝春秋、2019年)
・山本奈生『大麻の社会学』(青弓社、2021年)
・松本俊彦・新見正則『大麻の新常識―大麻では死なない、大麻に身体依存はない、でも……』(新興医学出版社、2024年)
・Andrew Weil & Winifred Rosen:From Chocolate to Morphine, Houghton Mifflin Company, 1998.
・Mark Kleiman, Jonathan Caulkins, Angela Hawken: DRUGS AND DRUG POLICY―WHAT EVERYONE NEEDS TO KNOW, Oxford University Press, 2011.
・Sue Pryce:Fixing Drugs, Palgrave Macmillan, 2012.
・David Nutt:Drugs without the hot air―Making sense of legal and illegal drugs, UIT Cambridge Ltd, 2021.


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脚注   [ + ]


園田 寿(そのだ・ひさし)
甲南大学名誉教授、弁護士。
1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年、成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年、日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年、朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。