(第19回)生殖補助医療で生まれる子の法的地位と出自を知る権利:法整備不在の下に次々と生まれてくる子どもたち
ヒトの性の生物学(麻生一枝)| 2025.03.14

このシリーズでは,私たちの人生に密接に関係する「ヒトの性に関する生物学的知見」を紹介していきます.
(毎月中旬更新予定)
前回は、日本の生殖補助医療には未だほとんど何の法的規制もなく、規制は産科婦人科学会を中心とした医師の自主規制という形で行われていること、そして、自主規制の効力には限界があり、学会の見解に反する生殖医療を行っている医師たちがいることをお話しした。第三者の卵子提供を仲介する NPO も登場している。
以下に引用した JISART や OD-NET の例が示すように、これらの医師や NPO の活動の動機は、「子どもができないのは病気なのだから、そして、それを治す方法があるのだから、治しましょう」といった即物的・実際的なものから、「こどもが欲しくてもできないのは辛いだろうから、なんとか助けてあげたい」といった感傷的なものまで様ざまだ。しかし、その前面に見えてくるのは、子どもができなくて悩んでいる夫婦、そして、彼らを助けようとする医療従事者という構図である。そこには、生殖補助医療で生まれてくる子どもが何を感じ何を思うのか、という視点が見えてこない。生まれてくる子どもは親とは異なる人格をもつ別個の人間である、という認識が欠如している。
