『新・基本事例で考える民法演習 すっきり民法玉手箱』(著:池田清治)

一冊散策| 2025.03.19
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

 

 

はしがき

本書の成り立ち
本書は、北海道大学法科大学院で3年課程1年生を対象に開講されている法律基本科目(民法)の定期試験の問題と解説(参考答案)をまとめたものです。実際に出題した問題に適宜修正を施し、解説(参考答案)については、この間の法改正を組み込んでいます。

北大法科大学院では、3年課程1年生を対象とする法律基本科目(民法)は『基礎プログラム民法』と呼ばれ、その対象領域はおおむね次のとおりです。

  • 基礎プログラム民法Ⅰ(春学期・3単位):総則、物権(担保物権を除く。)
  • 基礎プログラム民法Ⅱ(夏学期・3単位):契約総論、契約各論、債権総論(債権の目的及び債務 不履行  責任等)
  • 基礎プログラム民法Ⅲ(秋学期・2単位):債権総論(債権の目的及び債務不履行等を除く。)、担保物権、事務管理、不当      利得、不法行為
  • 基礎プログラム民法Ⅳ(冬学期・2単位):親族、相続

とりわけ未修者のみなさんからは、「答案の書き方」に関するご質問を受けることが多く、「どのような答案を書けばよいのですか。その方法を教えてください」とよく問われます。

しかし、答案とは問題に対する回答・・・・・・・・・・・・ですので、究極的には出題趣旨・・・・を汲み取り、それに答えているのが「優れた答案」であり、そして、出題趣旨は問題ごとに異なりますから、具体的な問題を離れた形での「答案の書き方(=方法)」なるものは原理的に・・・・存在しません。どのような問題にも妥当する「魔法のような答案作成術」などないのです(仮に、そのようなものがあるなら、誰も苦労しません)。したがって、あえて申し上げるなら、

1)問題文を「素直に」、そして、よく読み、出題趣旨を把握する。
2)その出題趣旨に応じた形で、つまり、出題趣旨が何であるかを分かっていることを示しつつ、分量や構成にも留意して、答案を作成する。

というのが「答案の書き方」であり、これは「修行」を積んで「体得」するしかありません。

もっとも、「修行」を積むには「素材」が必要であり、一定量の問題演習をして実際に答案を書いてみないと、「体得」することはできません。

そこで、『基礎プログラム民法』では、春学期の中盤(4月下旬)に本書に収録した「サンプル問題」とその解説をお配りし、動画で解説会を行っています。もちろん、「答案の書き方」は究極的には「出題趣旨」によりますので、ここで示された問題検討の手順は「万能」ではありませんが、比較的汎用可能性は高いように思います。

また、「修行」を積んで「体得」するには、一定量の問題演習をこなす必要があります。そこで、上記の各科目について、おおむね過去5年分くらいの定期試験の過去問と解説(参考答案)をお配りしています。

本書の活用法
本書を手にしてくださるみなさんは、法学部や法科大学院に在籍中の方、あるいはそれ以外のみなさんで司法試験や司法試験予備試験を目指している方々であるように思います。多様なみなさんが「読者」ですので、本書をどのように利用するかは、もちろん、みなさんの選択に委ねられます。それぞれのみなさんの学習の進展状況やご自身の勉強方法に従ってご活用ください。

もっとも、3年課程1年生のみなさんの中には、勉強の仕方自体に迷ったり悩んだりしている方もいらっしゃいます。そこで、一応、次のような手順を1つのサンプル・・・・・・・としてお勧めしています。

①実際の定期試験と同じ方法で、まず問題を解き、答案を作成してみる。すなわち、
ⅰ)参照してよいのは、六法のみ。
ⅱ)制限時間は90分とし、正確に時間を守る。途中までしかできてきないときは、そこで打ち切る。(なぜなら、それが今のみなさんの「実力」だからです。自分の実力を把握し、自覚するための「貴重な」機会を失ってはいけません。)

②次に教科書や参考文献を参照して、自分の理解していなかった箇所や忘れていた基本的事項を確認し、自覚する・・・・。ただし、この時点でも、まだ参考答案は見ない・・・・・・・・

③上記②の後、参考答案を参照し、自分が「身にしみて・・・・・分かっていなかった」基本的事項を確認した上、そのことを意識して・・・・復習し、使いこなせる・・・・・・ようにする。

④なお、現時点では難しいが、上級編として、その問題を解いた時点の知識水準(=理解度や定着度)でも、「このような手順で検討していれば、より良い答案を書けたであろう」という「方法論」を考え、書き留めておく。これには「見たことのない問題」に対する「対処法」をあらかじめ考えておく、という重要な・・・意味がある。

とはいえ、勉強の仕方は人それぞれですので、ご自身に合った方法で活用してください。

なお、3年課程1年生を対象とする科目ですので、参考答案はいわゆる要件事実論に即した形にはなっていません。

また、「優れた答案」は1つの種類には限られませんので、「これだけが正しい」という意味での「模範答案」は存在せず、そのため、必然的に「好み」の問題(文体はもとより、たとえばどこまでリスクアバース〔=心配性〕であるかなど)が介在します。この点はくれぐれも・・・・・ご留意ください(とはいえ、答案の中には明らかに「優れているもの」と「優れていないもの」が存在します)。

さらに、上記のように科目の内容を切り分けても、とりわけ財産法は全体として一体を成していますので、たとえば民法Ⅱの定期試験で民法Ⅲに関連する事項が出てくることもありえます。まだ習っていない事項については、間違っていても差し支えないことを示すようにしています(たとえば第7問の参考答案をご覧ください)。

最後に、解答にあたっては、問題文において特定されている日時にかかわらず、本書が出版された時に施行されている法令に基づくようにしてください。

それでは、みんなで一緒に民法を楽しみながら学んでいきましょう。

*民法玉手箱は登録商標(登録6505576)です。

目次

はしがき

序 章 サンプル問題

第1章 総則、物権

第1問 土地の一部の取得時効と分筆登記、虚偽表示(虚偽の中間省略登記)と第三者、取得時効と登記
—基礎プログラム民法Ⅰ(平成29年)

第2問 付合と即時取得、無権代理人の責任、対抗関係における第三者、無権代理人の本人相続と相手方の処遇
—基礎プログラム民法Ⅰ(平成30年)

第3問 復代理と表見代理、無権代理人の責任、無権代理行為の追認と第三者、共有と保存行為、所有権に基づく物権的請求権
—基礎プログラム民法Ⅰ(令和元年)

第4問 盗品と即時取得、使用利益と費用償還、心裡留保に基づく代理権授与と第三者、表見代理
—基礎プログラム民法Ⅰ(令和3年)

●コラム1:面子丸つぶれ

第2章 契約、債権総論(債務不履行等)

第5問 請負と解除、一部解除と報酬請求、所有権の帰属、虚偽表示と賃借人、賃料請求の可否
—基礎プログラム民法Ⅱ(平成27年)

第6問 二重賃貸借、無断転貸と引渡請求権者、賃貸目的物の滅失と賃貸借の帰趨、費用償還
—基礎プログラム民法Ⅱ(平成28年)

第7問 他人物売買と解除及び損害賠償、履行補助者、賠償の範囲、取立委任と解除
—基礎プログラム民法Ⅱ(平成29年)

第8問 手付、契約不適合責任と損害賠償、修繕費用の求償、受領遅滞と危険負担及び解除、代償請求権
—基礎プログラム民法Ⅱ(平成30年)

●コラム2:委任契約の解除と損害賠償

第3章 債権総論、担保物権、不法行為等

第9問 債権の二重譲渡と同時到達及び債権者同士の関係、債権譲渡と相殺及び逆相殺
—基礎プログラム民法Ⅲ(平成27年)

第10問 不法行為と後続する医療過誤、因果関係の範囲、弁済に基づく求償と被用者の責任
—基礎プログラム民法Ⅲ(平成28年)

第11問 債権者代位権と抵当権に基づく物上代位、債権譲渡との関係、抵当権侵害と失火責任法、失火責任法と債務不履行
—基礎プログラム民法Ⅲ(平成29年)

第12問 放火と不法行為、使用者責任、抵当権に基づく物上代位、保証人と求償及び弁済による代位、売却代金への物上代位
—基礎プログラム民法Ⅲ(平成30年)

●コラム3:民法に愛はあるか

第4章 親族、相続

第13問 代襲相続と相続分、相続放棄前の第三者、遺言書の隠匿と欠格事由、相続欠格と第三者
—基礎プログラム民法Ⅳ(平成28年)

第14問 親権の停止と表見代理、本人による無権代理人の相続と履行責任、遺贈と遺贈義務者からの譲受人、遺留分侵害額請求
—基礎プログラム民法Ⅳ(平成29年)

第15問 虚偽の出生届と認知及び養子縁組、特定遺贈と第三者、相続回復請求権と取得時効
—基礎プログラム民法Ⅳ(令和2年)

第16問 未成年後見人の利益相反と代理権の濫用、未成年被後見人と後見人の養子縁組、養子と近親婚、遺産分割協議後の第三者
—基礎プログラム民法Ⅳ(令和4年)

●コラム4:詫び状

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