人の親に:児童養護施設(内海新祐)
こころの現場からセレクト(こころの科学)| 2018.09.26
心理臨床、医療、教育、福祉、司法など、対人援助にはさまざまな「現場」があります。「こころの現場から」は、そうした臨床現場の風景をエッセイという形で紹介するコーナーです。雑誌「こころの科学」にこれまで掲載されたもののなかから、こころの科学編集部がいま届けたい記事をセレクトして転載します。
(奇数月下旬更新予定)
◆この記事は「こころの科学」177号(2014年9月号)に掲載されたものです。◆
ひところ、児童養護施設のことを知らない人にその機能を説明する際、「昔でいえば、まあ……孤児院が1番近いでしょうか」と言ってとっかかりを作っていたことがあった。その児童養護施設も、入所してくる子どもの9割以上に親がいるようになって久しい。離婚や失踪などで実親が両親ともに揃っている率は低い。しかし、片親であれ、再婚であれ、内縁であれ、実親のどちらかはいる場合がほとんどである。「親がいるのにどうして施設に預けてるんですか?」と、少し前にある保育士養成の専門学校生に質問され、その素朴で幸福な問いに私は一瞬たじろいでしまったが、たしかに不思議といえば不思議かもしれない。親が子どもを育てる。現代日本においてほとんど自明であるかのようなこの前提は、そうでないことが結構あるという現実を知らなければ、疑われることすらない。