『0歳からはじまるオランダの性教育』(著:リヒテルズ直子)
第1章 日本とこんなに違う、オランダ人の性意識
今から15年ほど前のことです。娘が当時中学3年生、こちらオランダでは年度末で、まもなく夏休みに入るという頃でした。
娘が言うには、同級生のステファニーがボーイフレンドと一緒にロンドンにバケーションに出かけることになったそうです。「ふーん、やっぱりオランダだなあ、中学に入学した時にはお母さんのかげに隠れて恥ずかしそうにしていたステファニーが、もうそんなことをするんだ」とこころのなかで密かに思いめぐらしていたところ、娘はこう続けました。
「ステファニーがお母さんにそう言ったら、お母さん、『ピルを持っていくのを忘れちゃダメよ』って言ったんだって」
「おっと、なにそれ??」。同年齢の娘をもつ母親として、私はこの話に内心たまげて、いくらかドギマギしてしまいました。
長年、オランダ人の夫と付き合い、オランダの人たちの考え方も理解していたつもりでしたが、思春期のオランダの子どもやその親たちがどんな行動・態度をとるものなのかはみえにくい部分もあり、この意外な会話の展開についていけなくなりそうでした。仮に娘がボーイフレンドとバケーションに行くと言ったら、はたして自分は許せただろうか。ましてや「ピルを持っていけ」などとさらりと言えただろうかと、けっこうショックだったのを覚えています。
他方、友だちのこととはいえ、そんな話をスラスラ母親にしてくるわが娘にも、少しばかり驚きました。こういうことを抵抗なく言える、つまり、性の問題をタブー(口にして触れてはならない事柄)としない文化をもつ社会や学校のなかで娘は育ってきているということなのです。
誤解のないように言い添えますが、当時娘が通っていたのは、ギムナジウムと呼ばれる、いわゆる大学進学準備校。それも、普通の大学進学準備校では教えないギリシャ語やラテン語も必須科目の、どちらかというと保守的・伝統的なエリート教育機関で、すんなりいけば、多くの生徒が専門職への道を進んでいく、という学校です。
ただ、進学校だからといってみな勉強だけをガツガツやっているわけではなく、年頃の子らしく恋もすればお化粧もするし、交際している生徒同士のカップルも珍しくありません。年度末やクリスマスが近づくと、生徒たちだけで、学校の講堂や街中のディスコでダンスパーティを開催し、みんなお化粧をしたり、ちょっとおしゃれなドレスを着たりして夜中まで楽しみます。
わざわざステファニーを引き合いに出すまでもなく、男女交際はあって当然だし、クラスメイトが性交渉をしたり避妊をしたりしていても、とりたててそれを「非行」だの「不良」だのと咎めだてする雰囲気はありません。ピアスもお化粧もダメ、髪の色を染めるのは不良のすること、靴下の色は白でスカート丈は○○センチ……と事細かな校則がある日本の中学校や高校からするとトンデモナイ学校だと思われるかもしれませんが、決してそんなことはないのです。
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続きは本書をご覧ください
目次
第1章 日本とこんなに違う、オランダ人の性意識
第2章 なぜオランダで性教育が義務化されたのか
第3章 生殖とセクシュアリティについての教育
第4章 〈性の多様性〉教育
第5章 障害児にこそニーズに沿った性教育を
第6章 性教育での教員の心得
第7章 性にオープンな社会への道――タブーを打ち破ってきた人々
第8章 オランダの性教育から学べること――これからの日本の子どもたちのために
書誌情報など
- リヒテルズ 直子著
- 紙の書籍(※電子書籍版もあります。)
- 定価:税込 1,836円(本体価格 1,700円)
- 発刊年月:2018年6月
- ISBN:978-4-535-56364-3
- 判型:四六判
- ページ数:232ページ
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関連情報
- リヒテルズ直子氏ブログはこちら
- 書誌掲載情報
- 2018年8月29日(水)日本海新聞11面、大阪日日新聞11面
- リヒテルズ直子氏の書籍
- リヒテルズ直子=苫野一徳『公教育をイチから考えよう』(日本評論社、2016年)