『異常気象と気象ビジネス』(著:可児 滋)

一冊散策| 2018.09.25
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

 

 

はじめに

本書は、気象をテーマの中心に置いて、相互に密接に関連する4つの項目を対象としています。

第1は、異常気象とその原因です。「統計開始以来の大雨で洪水が発生して多くの犠牲者が出ました」とか、「何十年ぶりの暑さとなり、熱中症で多くの人が病院に運ばれました」、「ゲリラ豪雨で花火大会が中止となりました」、「高温の日が続いて桜の満開の時期が早まり、葉桜で入学式を迎えることになりました」、「記録的な大雪の影響で、野菜の価格が急騰しています」といったニュースが各地から伝えられてきます。

そして、こうした異常気象の原因については、地球温暖化、エルニーニョ・ラニーニャ現象等があげられています。本書では、地球温暖化の現状とその原因、エルニーニョ・ラニーニャ現象の原因と日本の気象に与える影響等について、最新の事情を織り込んで記述しています。

第2は、気象観測、予報についてです。次の第3で述べる気象リスクに対する防衛策を講じるにしても、また第4の気象ビジネスを展開するにしても、気象の現況及び先行きの予測を的確に実施する必要があります。

こうした気象観測、予報は、気象庁が気象衛星等で収集したデータを提供して、それを民間気象事業者がユーザーのさまざまなニーズにマッチするようカスタマイズして提供する、という形で行われています。この結果、民間気象事業者の間ではいかにユーザーのニーズにフィットする情報を提供するか、さまざまな工夫が凝らされています。

第3は、気象リスクが産業界に与える影響とその回避策です。気象状況は、世界の80%のビジネス活動に直接、間接に影響を与えているといわれています。気象リスクには、気温、降雨、降雪、雹(ひょう)、暴風、日射等があり、農業を始めとしてさまざまな業界の生産、流通、販売等に甚大な影響を及ぼしています。また、再生エネルギーによる電力供給量が増加するにつれて、太陽光、風力、降雨といった気象条件の把握の重要性が高まっています。

こうした気象リスクのヘッジ手法としては、保険、天候デリバティブがあり、また、地震、台風、洪水等の大災害に対しては災害債券(キャットボンド)も活用されています。

第4は、気象ビジネスの展開です。気象庁は、日々さまざまな種類の気象情報を収集して、それを報道機関、防災機関、民間気象事業者等に配信、提供しています。それは、1日当たりでなんと新聞約11,000年分のデータに匹敵する膨大な量に上ります。

しかし、現状、こうした気象ビッグデータが産業界により十分活用されているとは言い難い状況にあり、気象ビジネスの創出、活性化が重要な課題となっています。

そこで、2017年3月に産学官連携による気象ビジネスの創出、活性化を目的とした気象ビジネス推進コンソーシアムが設立され、活動を展開しています。また、気象条件が消費動向に与える影響を分析して、仕入れ、在庫調整、広告、キャンペーン等の販売促進に活用する「ウエザーマーチャンダイジング」も活発化しつつあります。本書では、こうした気象ビジネスが産業界でどのように発展していくかを分野別に検討しています。

そして、以上の4点すべてについての重要な共通項となる要素がICTです。すなわち、異常気象を含む気象状況の観測・予測の向上には人工衛星や新鋭のスパコンが活躍し、気象リスクの把握、解析にはIoTやAI、ビッグデータ、クラウドが活用され、また、コンピュータを駆使してさまざまなリスク管理手法が開発されています。さらに、産業界でICTが浸透している中にあって、気象ビジネスの展開には、IoTやAI 等を活用した気象データの高度利用の推進が鍵となっています。

このように、気象ICTの活用を軸として、気象と社会生活や産業活動との関わりは、大きく変わろうとしています。

本書では、こうした気象を巡るさまざまなテーマについて極力、具体的なケースを取り上げてビビッドに記述しました。本書の出版に当たりましては、日本評論社第2編集部(経済)の斎藤博部長に企画から内容に関わる数々の貴重なサジェッション、そして体裁に至るまで、大変お世話になりました。紙上をお借りして同氏に対して厚くお礼を申し上げます。

本書が、私たちが日頃接している気象情報の生成、活用にICTがどのような形で活躍しているか、また、気象リスクのヘッジにはどのような手段があるか、さらに、気象ビジネスは今後どのような形で発展すると予想されるか、等の諸点について読者の皆様の理解を深める一助となれば幸甚です。

2018年7月
可児 滋

目次

はじめに
第1部 気象リスク
第1章 異常気象とは?
第2章 異常気象の原因は?
第2部 気象予報とICT
第1章 気象庁とICT
第2章 民間気象業者とICT
第3部 気象リスクのヘッジ
第1章 気象リスクの産業界への影響と気象データの活用
第2章 天候デリバティブと保険
第3章 災害債券(キャットボンド)
第4部 気象ビジネス
第1章 気象ビジネス市場
第2章 気象ビジネス市場の分野別動向

参考文献
索引
■「ひとくちmemo」

  • ヒートアイランド対策
  • リチャードソンの夢
  • 天気予報アプリ
  • 「ダークデータ」にとどまっている気象データ
  • スープ指数とガリ指数
  • モーダルシフト
  • 人工衛星、ドローンによるリモートセンシング
  • トヨタの農業カイゼン
  • 熱中症とWBGT
  • ドローン向けの気象情報
  • EMS(エネルギー管理システム)
  • 生気象学
  • 訪日外国人向け天気予報アプリ

書誌情報など

関連情報

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