バースデーケーキ:家庭裁判所(高島聡子)
こころの現場からセレクト(こころの科学)| 2018.10.17
心理臨床、医療、教育、福祉、司法など、対人援助にはさまざまな「現場」があります。「こころの現場から」は、そうした臨床現場の風景をエッセイという形で紹介するコーナーです。雑誌「こころの科学」にこれまで掲載されたもののなかから、こころの科学編集部がいま届けたい記事をセレクトして転載します。
(奇数月下旬更新予定)
◆この記事は「こころの科学」184号(2015年11月)に掲載されたものです。◆
発端は、1件の交通事故だった。夕暮れ時、買い物途中だった中年女性が、車にはねられて亡くなった。財布の中にあったドラッグストアのポイントカードから自宅がわかり、警察官が女性の自宅に赴いた。そこで警察官は、その女性と一緒に暮らしていた娘に、母の死を伝えなければならなかった。最初、高校生と思われる娘の話が要領を得ず、母の本籍も言えないのは、母の死に動揺しているからかと思っていたという。警察官は、女性の死亡届を出すために戸籍を取り寄せ、初めてその娘が戸籍に載っていないことに気づいた。そして、1歳下だという弟も。姉弟は、無戸籍のまま、本当ならばもう高校に通っていていい年齢になっていた。