『災害支援者支援』(著:高橋晶)
はしがき
東日本大震災以降、災害時のメンタルヘルスの重要性が取り上げられるようになったが、災害時における支援者のメンタルヘルスに関しては注目されるようになってからまだ日が浅い。本書は『こころの科学』189~200号のリレー連載「支援者支援学」をもとに新稿を加えたもので、復興のキーパーソンである災害支援者をどう支えていくかという災害支援者支援をテーマとした本邦初の書籍である。災害支援者とは、警察官、消防士、救急救命士、自衛官、海上保安庁職員、医療職、行政職、教職員、ボランティアなどが含まれる。
支援者支援の必要性を理解することによって、災害急性期から中・長期を見据えた支援者支援計画を被災地域とともに確立することを目指す。また、災害精神医学は災害時にのみ行われるものではなく、平時からの体制整備が重要である。このため、平時から災害精神医療・保健支援体制の整備を行い、普段から支援者支援を行えるよう準備・トレーニングを行い、災害時に備える。これによって平時の各職場での産業メンタルヘルスにも改善がみられるはずである。
過去の災害では、支援者支援について以下の課題が浮き彫りになっている。
- 大規模災害で、支援の対象となりうる最大数万人の被災者、および被災地内・外の多くの被災者を支援する災害支援者へのメンタルヘルスケアのすべてのニーズに対応することは困難であった。派遣された災害精神医療チーム(DPAT)も支援者支援を行い、またさまざまな組織・団体が各々に工夫して支援者支援を行ったが、すべてのニーズに対応することはできず、時期・期間、対象や支援内容が不均一であった。
- 「支援者支援」に明確な定義がなく、対象や支援内容に共通の認識、および標準化された手法がなかった。
- ストレスチェックの共通書式、実施後のフォローアップ体制が考案されていなかった。
本書は、以上の課題に対し、支援者支援の実例をもとに、現時点での支援者支援のあり方について共通の認識をもつことを目的として、提言し、啓発するものである。圧倒的に多い被災者、それを全力で支えている多くの支援者を支えること――災害支援者支援は重要である。被災者を支える支援者を支えることが、実は間接的・直接的に被災者を支えることになる。災害支援者支援は、被災地のためになり、また平時の支援者、働く人のメンタルヘルスに大きな力を与え、平時から市民のこころを守る体制整備につながる。
支援者支援学は、今後、さらに進化していくポテンシャルをもっている。現時点で提示できる範疇については限界があるが、今後の文献、調査、実働に伴ってさらに整備されていくだろう。
本書の骨子は、「支援者支援の必要性を読者に理解してもらうこと」「平時からの準備、災害精神医療・保健支援体制の整備を行うこと」「災害後の対応の方法を学習すること」であるといえよう。
最後に、本書を作成するにあたって、これまでの災害支援の実践に携わられた多くの方に感謝申し上げる。災害の多い日本において、今までの歴史の中で、医療、保健、行政など災害に関わったすべての方々が体験し、工夫し、蓄積した、その優れた先見の明と積み上げてきた知見が、現在の日本を、日本の災害精神医学を形作っている。これからも先人の積み重ねた対応という肩の上に感謝の念をもって立ち、日本の災害精神に役立つ連鎖に続くことができればと思っている。
2018年 高橋 晶
目次
第1章 災害精神医学とは…………………………………………高橋 晶
はじめに/災害とは/日本の災害/災害時のメンタルヘルスとは/時間ごとのこころの反応/サイコロジカル・ファーストエイドと支援の心構え/こころのケアチーム、そしてDPATについて/災害精神医学のなかの支援者支援学/まとめ
第2章 支援者支援学とは…………………………………………藤岡孝志
支援者支援学あるいは援助者支援学/支援者支援学を構成する諸概念/支援者支援における対策/共感疲労から見えてくる支援者の多様性/支援者支援モニタリングシステムと支援者の機能/支援者支援の今後の方向性
第3章 災害支援者支援のメンタルヘルスの原則………………高橋祥友
災害支援者支援の大原則/配慮が必要ないくつかの点/まとめ
第4章 極度のストレス下で起こりうる反応……………………高橋 晶
極度のストレス下とは/ストレス下で支援者に起こること/極度のストレス下で起こる反応/自己治療の末に起こること/惨事ストレスについて/支援者支援の例/まとめ
第5章 リジリエンス………………………………………………袖山紀子
リジリエンスとは/災害とリジリエンス/リジリエンスの要因/まとめ
第6章 救援活動前の準備―─教育と訓練を中心に……………清水邦夫
平時における災害時を見据えたメンタルへルス教育/普段から災害に備えて訓練しておく/発災後、出発までの短期間に行うべき準備と教育/支援者への教育に関する今後の課題
第7章 救援活動中のケア…………………………………………長峯正典
組織レベルでのメンタルヘルス対策/個人レベルでのメンタルヘルス対策
第8章 救援活動後のケア…………………………………………藤原俊通
はじめに/救援活動後のケア/活動終了後のケアの先にあるもの/事例/おわりに
第9章 災害支援者に対するフォローアップ……………………高橋 晶
はじめに/派遣からフォローアップまで/フォローアップの期間/ねぎらいが大切/家族への援助/こころの防災教育――自分を知る、自分の限界を知る/救援活動前後からフォローアップ、次の災害への準備/各組織におけるフォローアップ例/おわりに
第10章 派遣組と留守組との良好な関係…………………………長峯正典
派遣に際して注意すべき事項/派遣組が直面する困難/留守組が直面する困難/派遣組が任務を終える際に求められる“クールダウン”/派遣任務終了後の両者の違い/良好な関係を維持するための“ねぎらい”/おわりに
第11章 さまざまな職種における災害支援者支援………………高橋 晶
支援者支援の基本的な構造/消防における支援者支援/警察における支援者支援/海上保安庁職員における支援者支援/行政における支援者支援/医療者における支援者支援/教師における支援者支援/ボランティア・一般的な作業員における支援者支援/ジャーナリストにおける支援者支援/支援者支援をするうえで活動・協働する可能性のある職種/まとめと対応
第12章 災害支援者家族の支援とは………………………………脇 文子
はじめに/災害支援者家族の支援とは/「支援者家族の支援」が支援者支援となる/支援者家族に対して組織ができる支援とは/おわりに
第13章 被災地における災害支援者支援――中・長期的なこころのケアに焦点を当てて…………………………野口 代
災害時の支援者にとってストレスとなるもの/支援者のリジリエンス/支援者のリジリエンスを促進するための方法/おわりに
第14章 支援者が燃え尽きては支援活動は進まない……………高橋祥友
燃え尽き症候群を防ぐには/職員派遣の際の留意点/まとめ
コラム1 ハリケーン・カトリーナ (2018/12/10公開)
コラム2 9・11米国同時多発テロ (2018/12/14公開)
コラム3 トモダチ作戦 (2018/12/21公開)
コラム4 被災者・支援者の言葉 (2019/1/10公開)
コラム5 「ごちそうしたいんだよ」 (2019/01/16公開)
コラム6 災害対策は他人任せでよいのか (2019/01/23公開)
◆コラムは本サイト内で読むことができます!◆
書誌情報
- 高橋 晶 編
- 紙の書籍
- 定価:税込2,160円(本体価格 2,000円)
- 発刊年月:2018年12月
- ISBN:978-4-535-98470-7
- 判型:A5判
- ページ数:192ページ
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