強制動員被害者の請求権、司法判断と外交(権南希)
判例時評(法律時報)| 2019.01.31
一つの判決が、時に大きな社会的関心を呼び、議論の転機をもたらすことがあります。この「判例時評」はそうした注目すべき重要判決を取り上げ、専門家が解説をする「法律時評」の姉妹企画です。
月刊「法律時報」より掲載。
(不定期更新)
◆この記事は「法律時報」91巻2号(2019年2月号)に掲載されているものです。◆
韓国大法院2018年10月30日宣告 2013다61381全員合議体判決
Ⅰ
2018年10月30日、韓国大法院は、本件被害者らを過酷な条件の下で強制労働に従事させたとし、「強制動員被害者」らが日本企業に対して提起した損害賠償請求訴訟において被告(新日鐵住金)の上告を退け、被告に各1億ウォンの慰謝料支給を命じた原判決を確定させた。
これを受けて韓国では、原告らの賠償請求を認めた判決の結果は支持されているが、法曹からは司法の国際的信頼度の低下に対する危惧も出ている。一方、日本では、安倍総理が「国際法に照らしてあり得ない判断だ」と批判するなど、厳しい声が目立つが、本件事案の本質を人権問題として捉えて個人の救済を重視する国際人権法の進展を組み込んだ判決であるとの評価もある。
この判決に続き、三菱重工業に対しても賠償支払いを命じる大法院判決が確定され、この問題をめぐる日韓間の緊張の度合いはさらに高まっている。強制執行を含む問題の行方が注目される中、今のところ司法の判断を尊重しつつ外交上、無理のない解決の見通しは立っていない。ここでは、韓国大法院判決の内容と争点の整理を試みる。