『スクールロイヤーにできること』(編:ストップいじめ!ナビ スクールロイヤーチーム)

一冊散策| 2019.03.20
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

第1章 SLがやってくる!

I SL制度がはじまります

みなさんは、「スクールロイヤー」(以下本書では「SL」といいます)をご存知でしょうか。読んで字のごとく学校の弁護士です。

新しい態様で学校と関わる法律家として、2018年4月より、文科省主導で複数の自治体において試験的に“SL制度”の導入が開始されました。NHKのテレビドラマなどでも取り上げられたため、聞いたことがある方も多いかもしれません。

実はこのSL制度、まだ試験段階ということもあり、具体的な「在り方」は定まっていません。各自治体の検証を通じて、どういう在り方・関わり方が良いのか模索しはじめたところです。

これまでも、自治体の顧問弁護士や学校に授業や講演に来る弁護士など、学校に関わる弁護士はたくさんいました。SLには、これらとは異なる、新たな関わり方が期待されています。

私たちは、NPO法人ストップいじめ!ナビ(以下「ナビ」といいます)の活動を通して、これまで様々な学校と関わってきました。その経験を通じて私たちは、学校に関わる全ての大人たちがお互いの「できること」をもっと理解し合うことができれば、児童・生徒のために、より効率よく適切に協力し合うことができると確信しています。

本書では、そうした観点から、いじめナビの活動例を紹介するとともに、ナビの活動を通じて私たちが考えるSLの「在り方」を提示します。学校に関わる人々に弁護士の「できること」を知っていただき、教育現場と弁護士がしっかりと協力するSL制度創設の土台を築くことが、本書の目的です。

II SLは“学校みんな”をサポートできる

弁護士のできることと聞いてどのようなことを思い浮かべるでしょうか。一昔前は、主にトラブル・紛争の解決が答えとして挙げられました。しかし、これは弁護士のできることの、ほんの一部でしかありません。弁護士にできることの1つとして、近年注目を集めているのは「トラブルの予防」です。

事実、特に企業法務の分野などにおいて、法的リスクの検討やガバナンス構築のサポートなど、弁護士によるトラブル予防の活動が活発になされています。弁護士にできることが再評価されたことで、企業の中で活躍する弁護士、すなわちインハウスローヤーは、2001年の66人から2017年には1931人と20倍以上に激増しました(詳細は日本組織内弁護士協会の統計をご覧ください)。

他方で学校現場においては、学校内で働く“インハウスローヤー”はほとんどいません。学校も組織です。しかも、児童・生徒・保護者という主要な構成員が定期的に全て入れ替わる、関わるメンバーは数百から数千に及ぶなど、通常の企業よりもはるかにトラブル発生の土壌がある組織です。弁護士のトラブル予防のスキルが充分役立つことでしょう。

また、いじめ、ブラック部活動、体罰、ブラック校則、モンスターペアレンツ、教職員の過剰労働など、昨今、教育現場が抱える様々な問題は、いずれも原因の1つとして「法」をうまく使いこなしていないために組織としての風通しが悪くなっていることが挙げられます。

ですから、この度のSL制度は、弁護士の能力を教育現場に還元することで、トラブル予防をはじめ法の視点を現場に導入する絶好のチャンスといえるでしょう。弁護士がSLとして教育現場の「内側」に入り、その「仕組み作り(ガバナンスの構築など)」を適切にサポートしていくことができれば、学校という場をより「全ての個人が尊重される安心で安全な場」とすることが可能になります。法や規則を熟知している弁護士は、どのような仕組みを作れば制度的に個人の尊厳が守られやすいかを知っているからです。それは、必ずしも学校内の仕組み全てを大きく変えてしまうといったドラスティックなことではありません。実態を踏まえつつ、ほんの少し、視点や工夫を加えていくだけで変化は生まれます。

教育現場の「内側」に弁護士を置くことは、学校の体質そのものをより「風通しのよいもの」に変える可能性を大きく秘めているのです。

これは同時に、これまで教育現場に対して歯がゆさを感じながらも紛争を通して「外側」からしかアプローチできなかった弁護士達が、教育現場の「内側」に身を置くことで、教育現場を個人の尊厳が守られる場とすることに直接貢献できることも意味します。

今後、そうした「弁護士にできること」に着目した制度設計がなされれば、SL制度は、教育現場にとっても弁護士にとっても極めて画期的な制度となるでしょう。
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続きは本書をご覧ください。

目次

第1章 スクールロイヤーがやってくる!

第2章 スクールロイヤーと学校法務

第3章 スクールロイヤーといじめ対策

第4章 スクールロイヤーとこれから

書誌情報など

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