(第7回)再審開始決定に伴う刑の執行停止決定について(水谷規男)
【判例時報社提供】
(毎月1回掲載予定)
◎再審開始決定に伴う刑の執行停止決定の取消しを認めた決定
刑訴法448条2項による刑の執行停止決定に対する不服申立ての方法
(最高裁判所平成24年9月18日第三小法廷決定)
【判時2165号144頁】
この決定は、東住吉事件の再審開始決定をした大阪地裁が「4月2日午後1時30分をもって刑の執行を停止するとの決定(2012年3月27日)をしたことが契機である。検察官はこの刑の執行停止決定に対して抗告をし、大阪高裁は、4月2日の午前中に、地裁のした刑の執行停止決定を取り消した。弁護団はこの高裁決定が違憲・違法であると主張して特別抗告をした。私は弁護団の求めに応じて最高裁宛の意見書を出していたので、最高裁の決定を、半ば期待して待っていたのである。
最高裁は、この決定で、刑訴法420条2項に準じて抗告が許されるとした高裁の解釈を明確に否定した。刑訴法420条1項は、訴訟手続に関する判決前の決定に対して、即時抗告を許す旨の明文規定がない限り、抗告することができないと規定する。例外が同条2項で、「勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する決定」等については、抗告ができると規定する。高裁決定は、刑訴法450条が再審開始決定に対して即時抗告を認めながら、刑の執行停止決定に対しては即時抗告を認めていないことから、刑訴法419条に基づく一般抗告を許す決定からも除外されているとしたうえで、刑の執行停止を身柄の問題ととらえて、420条2項に準じて検察官の抗告が許されるとした。苦肉の策の解釈である。
これに対して最高裁は、「刑の執行停止決定は」、「再審開始手続又は再審開始後の審判手続において、終局裁判をするため、その前提としてなす」決定ではないから、「訴訟手続に関し判決前にした決定」又はこれに準ずる決定には当たらない」と高裁の論理を否定した。ところが、「刑の執行停止決定については、同法419条の裁判所のした決定であり、不服申立てを許さないとする特別の規定も存しないから、同条による抗告をすることができるものと解するのが相当である」。それゆえ、「原決定は、結論において正当」であるとして、特別抗告を棄却したのである。
私の意見書では、再審の理念から出発して、刑の執行停止決定に対しては、即時抗告も一般抗告も許されない、との解釈論を展開したつもりであったが、最後に一般論で足元をすくわれた、そんな忸怩たる思いがいまだにある。
しかし、この最高裁決定によって、刑の執行停止決定には一般抗告が対応するという実務解釈がもたらされたのなら、次のようなことも言えよう。静岡地裁の再審開始決定を取り消した袴田事件即時抗告審決定(2018年6月11日)は、死刑の執行停止決定、拘置の停止決定を取り消さなかった。これについて、再審請求棄却の結論と矛盾するとの指摘もあったところである。しかし、上記最高裁決定は、刑の執行停止決定は、開始決定に対する即時抗告の対象にならず、それとは独立した一般抗告の対象となるとの解釈を示したものである。一般抗告がない以上、刑の執行停止決定の当否は問題とならない。袴田事件の高裁決定が刑の執行停止を取り消さなかったことに何の問題もない、と。
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水谷規男(みずたに・のりお 大阪大学法科大学院教授)
1962年三重県生まれ。大阪大学法学部卒、一橋大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。三重短期大学法経科、愛知学院大学法学部を経て、2004年大阪大学法科大学院教授。
著書に『未決拘禁とその代替処分』(日本評論社、2017年)、『テキストブック現代司法(第6版)』(共著、日本評論社、2015年)、『疑問解消刑事訴訟法』(日本評論社、2008年)など。