(第8回)不思議な解析接続
数学の泉(高瀬正仁)| 2019.05.02
数学に泉あり。数学は大小無数の流れで構成されていて、今も絶え間なく流れ続けている雄大な学問ですが、どの流れにも源泉があり、しかもその源泉を作った特定の人物が存在します。共感と共鳴。数学の泉の創造者たちの心情と心を通わせることこそが、数学を理解するという不思議な体験の本質です。そこで数々の泉を歴訪して創造の現場に立ち会って、創造者の苦心を回想し、共感し、共鳴する糸口を目の当たりにすることをめざしたいと思います。
(毎月上旬更新予定)
$\def\dfrac#1#2{{\displaystyle\frac{#1}{#2}}}$
関数の変数の変域を実数から複素数に拡大し,実変数の場合と同じように微分や積分の演算を考えていくと,実変数関数の場合には見られない不思議な現象に出会います.それは解析接続という現象です.一般的に考えると関数には定義域と呼ばれる場所が附随します.1 個の実変数 $x$ の関数であれば,実数直線上の区間 $(a, b)\ (a<b)$ などが指定され,「関数をここで考える」という宣言とともに解析学が解き起こされていきます.ところが複素変数の関数の場合には前もって定義域を指定するということが無意味になってしまいます.なぜなら,どの関数にもそれぞれに固有の定義域が先天的に伴っていて,そのためにまずはじめに関数を考える場所を指定するということが無意味になってしまうからです.