(第9回)解ける方程式を解く
数学の泉(高瀬正仁)| 2019.06.04
数学に泉あり。数学は大小無数の流れで構成されていて、今も絶え間なく流れ続けている雄大な学問ですが、どの流れにも源泉があり、しかもその源泉を作った特定の人物が存在します。共感と共鳴。数学の泉の創造者たちの心情と心を通わせることこそが、数学を理解するという不思議な体験の本質です。そこで数々の泉を歴訪して創造の現場に立ち会って、創造者の苦心を回想し、共感し、共鳴する糸口を目の当たりにすることをめざしたいと思います。
(毎月上旬更新予定)
$\def\dfrac#1#2{{\displaystyle\frac{#1}{#2}}}$
代数方程式を解こうとする試みは早くから行われてきた模様ですが,17 世紀に入ってデカルトが現れて,古いギリシアの幾何学の作図問題を代数方程式の解法に帰着させて解くというアイデアを提示しました.西欧近代の数学史において代数方程式の解法理論が表舞台に立つことになったのは,この出来事がきっかけになっています.デカルトのアイデアが十全に生きるためにはあらゆる代数方程式を自由に解けるのでなければなりませんが,実際にはたいへんな難問で,5 次方程式を解くこともできないまま 100 年,200 年と歳月が流れました.「解く」ということの意味にも省察が加えられ,「代数的に解く」ことという限定が課され,19 世紀のはじめにアーベルの「不可能の証明」が出現して,5次の一般方程式を代数的に解くことはできないことが明らかになりました.