(第8回)続く黄色いベスト運動とマクロン大統領の政策転換

EUの今を読み解く(伊藤さゆり)| 2019.05.29
2019 年は EU にとって、イギリス離脱のほか、5 年に 1 度の欧州議会選挙、それに伴う EU の行政執行機関・欧州委員会のトップにあたる委員長の交代と体制の刷新、さらに首脳会議常任議長(通称、EU 大統領)、欧州中央銀行(ECB)総裁も交代するという大変革の年です。このコラムでは、こういったイベントを軸に EU の今を読み解いていきます。

(毎月下旬更新予定)

4 月 25 日、マクロン大統領が、就任からのおよそ 2 年間で初めて記者会見を開催した。

会見の狙いは 2 つあった。

第 1 の狙いは、今も続く反政権の抗議活動「黄色いベスト運動」1)の沈静化だ。マクロン大統領は、17 年 5 月の就任以来、EU の財政基準の達成とフランス経済の活性化のための構造改革に意欲的に取り組んだ。18 年 11 月に抗議活動が始まっても、当初は政策方針を維持する構えだった。しかし、12 月 10 日には、活動の直接のきっかけとなった燃料税の引き上げ撤回のほか、購買力引き上げのための最低賃金の引き上げ、年末ボーナスへの税・社会保険料の免除などの 100 億ユーロ規模(フランスの国内総生産の 0.4%相当)の緊急対策を迫られた。

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脚注   [ + ]

1. 黄色いベストを着用した抗議行動は、組織化されたものではなく、地方発のソーシャルメディアなどを通じた呼びかけに応じて広がった。黄色いベストは、フランスでは自動車運転者に携行が義務付けられており、安価で入手しやすいこともあり広く浸透した。