集合知は真実を “識別” できるか?
海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2019.08.02
Arieli, Itai, Takov Babichenko and Rann Smorodinsky(2018)”When is the Crowd Wise?” mimeo.
宮下将紀
$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}$
集合知とは、大勢の人々の情報や知性を集めることによって優れた意思決定を行おうという試みである。いまはなきクイズミリオネアというテレビ番組で、挑戦者への助け舟の 1 つとして「オーディエンス」というライフラインが用意されていた。大勢いる観客に正解だと思う選択肢に投票してもらうというものだ。多くの場合、このライフラインを使った挑戦者は最多票を得た選択肢にベットしていたが、ある意味でこれは集合知への期待の表れであるように思える。もっとも、クイズの難易度が上がるステージの後半では観客の投票がきれいに割れたり、最多票の選択肢があっさり期待を裏切ることは少なくなかったのだが1)。では、どうすれば状況は挑戦者にとって有利になるだろう。投票する観客の数を大幅に増やし、スタジオに収まらないくらい大勢いたとしてみよう。また、観客は正解だと思う選択肢だけでなく、彼らの知識に基づいて算出した確率の形で答えの予測を表明することができるものとしよう(たとえばA 45%、B 30%、C 25%のように)。このいくぶんマシになった状況で、はたして挑戦者は集合知の力で真実にたどり着くことができるだろうか。Arieli, Babichenko and Smorodinsky(2018)は観客が無限にいると想定する極限ケースにおいて、観測可能な大勢の予測から真実を “識別” するための必要十分条件を導出した。
脚注
1. | ↑ | より学術的な例を挙げておくと、集合知に関する実証研究は20世紀初頭の人類学者ゴルトンまで遡る。彼はラテン語で集合知を意味する “Vox Populi” というタイトルの論文の中で、プリマスの収穫祭で行われた太った雄牛の体重を当てる賭けの事例を紹介した。約800人の参加者が出した予測のちょうど中位である1207ポンドは、正解である1198ポンドのわずか 1%以内に収まったという。 |