最低制限価格が談合を緩和する:茨城県の公共工事のデータを用いた実証分析

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2020.02.21
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Chassang, Sylvain and Juan Ortner (2015) “Collusion in Auctions with Constrained Bids: Theory and Evidence from Public Procurement,” Working Paper.

野田俊也

$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}$

公共工事の入札契約と最低制限価格

制度設計論の研究は、入札が社会厚生上、望ましい配分を達成し、かつ競争を通じて落札価格を下げることで、政府の支出を適度に減らしてくれることを明らかにしてきた。これを反映して、国や地方公共団体が事業者と公共工事について契約を行う際には、原則として一般競争入札を行うことが定められている。一般競争入札では、入札への参加資格の制限を設けず、希望者が自由に一位価格入札に参加し、その勝者が工事を受注する。

一方で、実務的には落札価格が「安すぎる」ことも問題となりうる。過度に低い価格で工事を請け負おうとするダンピング受注は、工事の質の低下を引き起こすおそれがあるからだ。これを防ぐため、入札のルールには、最低制限価格これより安い価格で入札すると、その事業者は失格となるという価格が設定されることがある。最低制限価格が設定されると、工事の落札価格は底上げされるため、政府の支出は増えるのが直感である。

ところが、今回紹介する Chassang and Ortner (2015)は、この最低制限価格が談合を弱める効果を持つため、むしろ政府の支出を減らす場合があることを明らかにした。さらに彼らは、茨城県の公共工事の入札において、実際に最低制限価格の導入が政府の支出を減らしたことを実証している。

このコンテンツを閲覧するにはログインが必要です。→ . 会員登録(無料)はお済みですか? 会員について