ニューフロンティアとしてのファッションロー(関真也)(特集:知的財産法入門)

特集から(法学セミナー)| 2019.10.18
毎月、月刊「法学セミナー」より、特集の一部をご紹介します。

(毎月中旬更新予定)

◆この記事は「法学セミナー」778号(2019年11月号)に掲載されているものです。◆

1 はじめに

ファッション業界では、デザインの模倣が常態化しているといわれることがある。その背景の1つには、流行やシーズンの移り変わりによって需要が大きく左右されるというファッション産業の特色がある。一定程度デザインが共通した商品が多数のファッション企業に採用され、大量に市場へ供給されると、消費者はそのデザインが「流行している」と認識し、そのデザインを備えた商品に対する需要が強く喚起される。また、とりわけアパレルについては、少なくとも春夏(SS)と秋冬(AW)という2つのシーズンがあり、商品ラインアップが入れ替わるが、シーズンが変わるごとに消費者に新しい商品を手に取ってもらうためには、流行したデザインの商品を豊富に市場に投入するとともに、次に来る流行の情報を発信することによって流行の移り変わりを加速させ、次のシーズンにはそれまでのものとは異なる新しいデザインの商品がほしいという消費者の需要を絶えず喚起する必要がある。これを実現するうえで、デザインの模倣をある程度許容し、あるデザインの商品やそれに関する情報が市場に行き渡りやすい環境にした方が、とりわけマス市場をターゲットとするファッション企業にとって合理的な面がある。こうしたことも影響して、ファッション業界では模倣が起こりやすく、また、黙認されることも少なくないといわれる。

とはいえ、全ての模倣が許容されるわけではない。着用者を魅力的に飾り、あるいは自己表現の手段ともなるファッション製品にとっては、デザインこそが商品価値の核心の1つであり、その開発・商品化に向けた企業努力が行われる。特にシーズン性の強い商品の場合、短いシーズンの間に開発・商品化に投じた費用等を回収し利益を上げなければならないから、スピーディーに模倣商品を市場から排除しなければならない。また、あるデザイン自体が、自社のブランドの商品であることを指し示す目印になっていることもある。この場合、例えば、デザインが類似する他社の粗悪品等が出回ることによるイメージダウンを予防・回避する必要がある。したがって、ファッションデザインを取り扱う法律家は、ファッション業界の特色や商品ごとの特性(シーズン性、機能、用途など)と、各種知的財産権の長所・短所(図表1)を正しく理解して、事案に応じた最適なデザイン保護戦略を策定し、実行することが求められる。

このような特色のあるファッション産業に関わる関連法領域の総称を、「ファッションロー」と呼ぶ。欧米に限らず、南米、アフリカなどを含めた世界各国でファッションローの研究機関やネットワークが立ち上げられ、また、ロースクールをはじめとした教育機関でもファッションローコースが設けられるなど、高度な専門性を備えた法律家の育成が盛んになっている。我が国でも注目とニーズを高めている分野であるといえるだろう。

以下、近時裁判になった事例を取り上げて、知財ロイヤーがファッションデザインの模倣を巡る事案においてどのように考え、活動するのかを紹介したい。

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