母と歩んだ40年―娘からみたトーシツライフ(中村ユキ)(特別企画:統合失調症の暮らしに寄り添う)
特別企画から(こころの科学)| 2020.02.17
心理臨床、精神医療、教育、福祉等の領域で対人援助にかかわる人、「こころ」に関心のある一般の人を読者対象とする学術教養誌「こころの科学」。毎号の特別企画では、科学的知見の単なる解説ではなく、臨床実践に基づいた具体的な記述を旨としています。そうした特別企画の一部をご紹介します。
(毎月中旬更新予定)
◆本記事は「こころの科学」210号(2020年3月号)の、福田正人・向谷地生良=編「統合失調症の暮らしに寄り添う」に掲載されているエッセイです。◆
『こころの科学』はその歴史のなかで、定期的に統合失調症の特別企画を組んできました。今回のキーワードは「暮らし」。人が生活と人生を送る暮らしのなかで、統合失調症がどのように体験され、どのような支援が求められているのかを、専門職だけでなく当事者や家族の方にもご執筆いただきました。日々の生活の営みという視点から、統合失調症をあらためて考えます。
「なぁ、ユキ。おまえオカンが死んだ時、泣いたん?」
母の葬儀が終わった後、すぐに会った幼なじみ兄妹の兄のほうが興味深そうに聞いてきた。
「兄ちゃん、デリカシーない! なんで今そんなこと聞くん?」
窘(たしな)める妹を無視して兄が再び口を開いた。
「だってユキ、高校ん時言うてたやんか。うちオカン死んでもたぶん泣かへんわって。だから気になってん」