(第23回)直角三角形の基本定理の根底にあるもの
数学の泉(高瀬正仁)| 2020.08.04
数学に泉あり。数学は大小無数の流れで構成されていて、今も絶え間なく流れ続けている雄大な学問ですが、どの流れにも源泉があり、しかもその源泉を作った特定の人物が存在します。共感と共鳴。数学の泉の創造者たちの心情と心を通わせることこそが、数学を理解するという不思議な体験の本質です。そこで数々の泉を歴訪して創造の現場に立ち会って、創造者の苦心を回想し、共感し、共鳴する糸口を目の当たりにすることをめざしたいと思います。
(毎月上旬更新予定)
$\def\dfrac#1#2{{\displaystyle\frac{#1}{#2}}}\def\t#1{\text{#1}}\def\dint{\displaystyle\int}$
直角三角形の基本定理とは
1641 年 6 月 15 日,ピエール・ド・フェルマは数学の友フレニクルに手紙を書き,「直角三角形の基本定理 (la proposition fondamental des triangles rectangles)」を報告しました.フェルマが数の理論の領域で発見した多種多様な真理の中で,「フェルマの小定理」と並んで群を抜いてめざましい印象を受ける命題です.直角三角形の基本定理というのは,「4 の倍数を 1 だけこえる素数」の性質に関する命題で,そのような素数は二つの平方数の和の形に表されることが語られています.しかもそのような表示の仕方はただひととおりに確定することも,この命題に附随しています.いくつかの例を挙げると,
\begin{align*}
5=1+4,\quad 13=4+9,\quad 17=1+16,\quad
29=4+25,\quad 37=1+36,\quad 41=16+25, \cdots
\end{align*}というふうに,どこまでも続きます.