(第12回)数打ちゃ当たる統計的有意差と QRP — あなたもやっていませんか?
現実を「統計的に理解する」ための初歩の初歩(麻生一枝)| 2020.10.06
私達が生きる現実社会の多くの問題の理解には,種々の数値の測定や観察とそれを「統計的に処理する」作業が欠かせません.毎日のニュースでもありとあらゆる機会に「数値」が出てきますが,その意味をきちんと考えたり信憑性を疑うことは、必ずしもなされていないようです.この連載では,誰でも知っておいてほしい統計についての基本的な考え方や, 統計にまつわる誤解や陥りやすい罠を紹介していきたいと思います.
(毎月中旬更新予定)
数打ちゃ当たる統計的有意差
統計的有意差のある結果を得るのは,そうむずかしいことではない.とにかく片っ端からいろいろデータをとってみて,いくつも統計検定をすればいい.なぜなら,行う検定の数が増えれば増えるほど,そのうちの少なくとも $1$ つの検定で,統計的有意差の出る確率は上がるからだ.
$\def\dfrac#1#2{{\displaystyle\frac{#1}{#2}}}\def\t#1{\text{#1}}\def\dint{\displaystyle\int}\def\C{\text{C}}$
例えば,スマホを使いすぎると脳に悪影響があるかどうか調べたいとしよう.スマホを使う時間は $1$ 日に何時間と具体的に測ることができる.しかし,脳への影響は何やら漠然としている.そこで,脳への影響を測る尺度として,脳の血流量,単語を記憶する能力,計算力,論理的思考力,空間認知力など,さまざまなものを測定する.
麻生一枝 成蹊大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会)など.