「何」が「いつ」起こるかの意思決定理論

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2020.10.01
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

DeJarnette, P., Dillenberger, D., Gottlieb, D. and Ortoleva, P.(2020) “Time Lotteries and Stochastic Impatience,” Econometrica, 88(2): 619-656.

宮下将紀

$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}\def\BB#1{\mathbb{#1}}$

はじめに

2 つの投資プランを考えよう。プラン A は 10 年後に確実に 100 万円の収益をもたらす。一方で、プラン B は A と同様に 100 万円の収益をもたらすことは確約されているが、半々の確率でそれが 5 年後になるのか 15 年後になるのかわからない。すなわち、両プランは収益に加えてそれが得られる時期の期待値も等しいが、片方のみに不確実性が介在する。より一般的に、日常の数多くの場面には「何が起こるか」という帰結についての不確実性に加えて、それが「いつ起こるか」という時間についての不確実性がつきまとう。実際、経済学で熱心に議論されがちなのは前者かもしれないが、後者に重要な不確実性が介在する局面も現実にはたくさん見受けられる。いまやっている就職活動はいつ終わるのだろうか。最近売りに出した実家の土地にはいつ買い手がつくのだろうか。政府からの特別給付金はいつ自分の口座に振り込まれるのだろうか。具体例を挙げようと思えば枚挙にいとまがない。

このような帰結と時間の双方に不確実性がある状況で、人々は実際にどのような選択をするだろうか。また、どのような選択をするべきだろうか。本稿で紹介する論文の目的は、こうした問いに対する答えを公理的アプローチによって提示することだ。

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