『憲法2─総論・統治』(著:渡辺康行・宍戸常寿・松本和彦・工藤達朗 )
はしがき(抜粋)
本書の姉妹編『憲法Ⅰ 基本権』を公刊したのは、2016年4月のことだった。それから4年半、今こうして本書を公表できることは、著者一同にとって大きな喜びである。この4年半を遅いと思う読者もいれば、前著が公刊に至るまで7年かかったことからすると、予想より早かったと思う読者もいるだろう。いずれにせよ、私たちは読者に、憲法総論・統治に関する最新で、確実かつ詳細な情報や知見を提供しようと努めてきた。その成果が本書である。体系書・概説書ではあるものの、叙述は決して無味乾燥ではなく、意外に面白く読める著作となっているはずである。
本書の第1の特色は、前著に引き続いて、判例を重視していることである。第2部の統治の各章、とりわけ、選挙、司法権、違憲審査制、地方自治などに関しては、判例をかなり詳しく扱っている。ただし、第1部の憲法総論はもちろん、統治の章の中でも裁判になりにくい分野がある。そのような分野では、政治や行政の実例をできる限り取り上げている。本書はそのような方針をとることにより、抽象論ではなく、憲法がどのように解釈、運用されているかを具体的に示そうとしている。
第2の特色は、憲法典だけではなく、「憲法附属法」といわれる一連の制定法についても詳しく解説していることである。つまり、皇室典範、公職選挙法、国会法、内閣法、裁判所法、財政法、地方自治法等々である。日本では1990年代から2000年代初頭にかけて、そうした憲法附属法が大規模に改正され、「政治改革」「統治制度改革」と呼ばれる憲法秩序の変動が生じた。さらに2000年代以降には、憲法改正国民投票法が成立し、防衛法制の重大な変更も行われた。本書はこれらを、憲法学の観点から分析し、説明しようとしている。さらに本書は、類書に例の少ない試みとして、国会、内閣等の憲法典上で規定された機関だけではなく、宮内庁、内閣法制局、最高裁判所事務総局・調査官室などの附属的な機関についても積極的に論及した。それらが実際に果たしている役割の重要性を考慮してのことである。
第3の特色は、本書を貫く理論的な枠組みとして、機能的な権力分立論を採用していることである。「協働執政」を論ずる章がその典型であるが、その他にも、例えば立法・行政に対する司法的統制に関する記述や国と地方との関係に関する記述などの基礎にも、機能的な役割分担の思考がある。
前著と同様、本書を執筆するに際しても、10数回の編集会議を行い、お互いの原稿を念入りに検討し合ってきた。私たちは理論的に相当程度に共通の基盤に立っているものの、主な研究領域は異なり、研究者として育ってきた環境にも違いがある。それだけに継続的に会議を行うことによって、沢山の新たな知見を得ることができた。そうした共同作業を積み重ねた結果として、本書は実質的な意味でも共著というにふさわしいものとなった。クロスリファレンスがかなり充実していることは、その一つの証である。
目次
はしがき
Ⅰ 総論
第1章 憲法の意味と役割
第1節 総説
1 「日本国」「憲法」/2 イェリネクの国家理論/3 国家と社会の区別/4 ロックの社会契約+信託論/5 統治の正当性と憲法の役割/6 立憲主義の憲法としての日本国憲法
第2節 「憲法」の概念
1 「憲法」という日本語/2 「憲法」の意味
第3節 憲法規範
1 憲法規範の特質/2 成文法源/3 不文法源
第4節 憲法の通用範囲
1 空間的・地域的範囲:領土/2 人的範囲:国民/3 時間的範囲
第2章 日本憲法史
第1節 総説
第2節 明治憲法
1 明治憲法の成立/2 明治憲法の内容/3 明治憲法の運用
第3節 日本国憲法の成立
1 日本国憲法の成立過程/2 日本国憲法成立の法理/3 日本国憲法の概説
第4節 日本国憲法の定着と運用
1 日本国憲法の定着/2 55年体制とその終焉/3 統治機構改革と憲法の現在/4 違憲審査制の運用と学説
第3章 国民主権と天皇制
第1節 総説
1 上諭と前文/2 前文の法的性格/3 上諭と前文の矛盾?
第2節 国民主権
1 「主権」の意味/2 「国民」の意味/3 「国民に主権がある」「国民が主権をもつ」の意味/4 主権=憲法制定権力の法的拘束:尾高・宮沢論争/5 国民主権の制度化
第3節 天皇制
1 明治憲法と日本国憲法:天皇制の連続と断絶/2 天皇の地位/3 皇位の継承/4 天皇の権能:国事行為/5 天皇の「公的行為」/6 天皇の権利と責任/7 摂政/8 皇室経済/9 宮内庁
第4章 権力分立と法の支配・法治国家
第1節 総説
第2節 権力分立
1 概説/2 日本国憲法における権力分立/3 権力分立の現代的理解
第3節 法の支配・法治国家
1 概説/2 日本国憲法における法の支配・法治国家
第5章 平和主義
第1節 総説
1 国際協調主義と平和主義/2 国際社会における平和の実現
第2節 憲法9条と自衛隊
1 憲法9条の成立経緯と法規範性/2 戦争放棄/3 戦力不保持/4 交戦権の否認/5 防衛法制
第3節 日米安全保障体制と自衛隊の海外派遣
1 日米安全保障体制/2 自衛隊の海外派遣
第4節 安全保障関連法制の整備と平和主義
1 集団的自衛権と政府の憲法解釈変更/2 平和主義の課題
第6章 憲法の変動と保障
第1節 総説
第2節 憲法の変動―改正と変遷
1 憲法改正の概念/2 日本国憲法の改正手続/3 憲法改正の限界/4 憲法の変遷第3節 憲法の保障
1 宣言的保障/2 実定憲法機構上の保障/3 国家緊急権/4 抵抗権
Ⅱ 統治
第7章 代表民主制
第1節 総説
第2節 代表民主制と直接民主制
1 有権者団とその権能/2 代表民主制/3 直接民主制
第3節 代表民主制と選挙制度
1 選挙区制と選挙方法/2 選挙制度と民主主義のモデル/3 日本における選挙制度第4節 選挙に関する基本原則
1 概説/2 普通選挙/3 直接選挙/4 自由選挙/5 平等選挙/6 秘密選挙
第5節 選挙に関する争訟
1 概説/2 名簿訴訟/3 選挙無効訴訟/4 当選無効訴訟/5 連座制の訴訟
第6節 政党
1 政党の機能/2 日本国憲法上の政党の位置づけ/3 政党本位の選挙制度/4 政治資金規制・政党助成/5 政党法制の構築と裁判所による審査のあり方
第8章 議院内閣制
第1節 総説
第2節 議院内閣制の特質
1 比較の中の議院内閣制/2 議院内閣制の一元型と二元型/3 責任本質説と均衡本質説
第3節 国会と内閣の相互関係
1 内閣の対国会責任/2 内閣による衆議院の解散
第4節 国会と内閣の協働
1 国会と内閣の協働執政/2 法律の制定/3 立法の委任と受任/4 予算の作成と議決/5 条約の締結と承認/6 国会の召集/7 その他の協働執政
第5節 国会による政府の統制
1 政府統制の意義/2 法律による行政の原理/3 質問・質疑・報告徴収/4 両議院による国政調査/5 両議院の決議/6 財政統制
第9章 国会
第1節 総説
第2節 国会の地位
1 全国民の代表機関/2 国権の最高機関/3 唯一の立法機関
第3節 国会の組織
1 二院制/2 任期制/3 会期制/4 会議の構成/5 参議院の緊急集会
第4節 国会の権能
1 憲法改正の発議権・提案権/2 立法権/3 条約締結の承認権/4 財政を処理する権限/5 内閣総理大臣の指名権/6 弾劾裁判所の設置権/7 法律に基づく権能
第5節 議院の組織と権能
1 議院の組織/2 議院自律権/3 国政調査権/4 決議権
第6節 国会議員の地位と権能
1 国会議員の地位/2 国会議員の権能/3 国会議員の特権
第10章 内閣
第1節 総説
第2節 行政府における内閣の組織と地位
1 行政国家における行政府/2 内閣の特色
第3節 内閣の権能
1 行政権/2 内閣の職務/3 国事行為の助言と承認/4 国会に対する権能/5 裁判所に対する権能/6 その他の権能
第4節 内閣総理大臣と国務大臣
1 内閣の構成員/2 内閣総理大臣の地位と権限/3 国務大臣の地位と権限/4 法律・政令の署名と連署
第5節 行政各部
1 行政組織としての行政各部/2 独立行政委員会
第11章 裁判所と司法権
第1節 総説
第2節 司法権と法律上の争訟の概念
1 概説/2 司法権の範囲/3 法律上の争訟/4 「その他法律において特に定める権限」/5 司法権の限界
第3節 司法権の帰属と国民の司法参加
1 概説/2 特別裁判所の禁止/3 行政機関による終審裁判の禁止/4 内閣総理大臣の異議/5 国民の司法への参加
第4節 裁判所の組織と権能
1 概説/2 最高裁判所の構成/3 最高裁判所の権能/4 下級裁判所
第5節 司法権の独立
1 概説/2 裁判官の職権行使の独立/3 裁判官の身分保障/4 裁判官の報酬/5 裁判官の除斥・忌避・回避
第6節 裁判の公開
1 概説/2 「対審」および「判決」の公開/3 「公開」の意味/4 公開を要する「裁判」/5 対審の公開停止
第12章 違憲審査制
第1節 総説
第2節 違憲審査制の類型
1 違憲審査制の歴史/2 アメリカ型とドイツ型/3 合一化傾向/4 日本国憲法の下での違憲審査制
第3節 違憲審査の対象
1 国内法規範とその適用行為/2 条約/3 立法不作為/4 国の私法上の行為/5 憲法改正
第4節 違憲審査の要件
1 訴訟要件/2 違憲主張の適格
第5節 違憲審査の方法
1 文面審査と適用審査、法令審査と処分審査/2 立法事実の審査/3 違憲判断の基準
第6節 合憲判断の方法
1 憲法判断の回避/2 合憲判決/3 憲法適合的解釈/4 合憲限定解釈
第7節 違憲判断の方法
1 法令違憲/2 処分違憲
第8節 違憲判決の効力と違憲判決の多様化
1 「違憲判決の効力」の意味と内容/2 違憲判決の遡及効/3 違憲確認判決と違憲警告判決/4 違憲判決の将来効
第9節 憲法判例
1 憲法判例の拘束力と憲法判例の変更/2 憲法判例による救済の創造とその限界
第8節 違憲審査制の活性化のための制度改革
1 日本国憲法下の違憲審査制の運用/2 司法消極主義の要因と最高裁判所の制度改革論
第13章 財政
第1節 総説
第2節 財政民主主義(83条)
第3節 租税法律主義(84条)
1 「租税」の意味/2 「法律又は法律の定める条件」
第4節 国費の支出および債務負担行為(85条)
1 国費の支出/2 国庫債務負担行為/3 健全財政主義
第5節 公金支出等の制限(89条)
第6節 予算(86条)
1 予算の概念:予算の法的性格/2 予算と法律/3 予算の成立過程/4 予算が不成立の場合:暫定予算/5 予算成立後の変更:補正予算
第7節 予備費(87条)
第8節 決算(90条)
1 決算の意義/2 会計検査院の検査/3 国会の審査
第9節 財政状況の報告(91条)
第14章 地方自治
第1節 総説
1 地方自治の意義/2 地方自治の沿革
第2節 地方公共団体
1 憲法上の地方公共団体/2 二層制
第3節 地方公共団体の機関
1 長と議会/2 住民の政治参加
第4節 地方公共団体の権能
1 地方公共団体の権能と事務/2 条例制定権/3 自主財政権/4 国と地方の関係
事項索引
判例索引
書誌情報など
- 『憲法2──総論・統治』
- 渡辺康行・宍戸常寿・松本和彦・工藤達朗 :著
- 紙の書籍
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- 定価:本体価格3,200円
- 発刊年月:2020年9月
- ISBN:978-4-535-52479-8
- 判型:A5判
- ページ数:488ページ
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