(第11回)法セミ2021年2月号の学び方のポイント&例題
連載に先だって、次回取り扱う内容のポイントと例題を掲載していきます。予習に、力試しに、ぜひご活用ください。そして、「法学セミナー」本誌もあわせてご覧ください。初学者の強い味方となる「初歩からはじめる物権法」、2020年4月号より連載開始です!
(毎月中旬更新予定)
連載第11回の「学び方のポイント」
「衆議院議員……は、法定の除外事由がないのに外国から支払を受け……」。内閣総理大臣を務めた者を逮捕した日の夕刻、広報の仕事をする東京地方検察庁の次席検事が紅潮して被疑事実を読み上げる。民法の物権法の分野の解説、「初歩からはじめる物権法」の連載をしてきた筆者の高校時代のできごとです。読者の皆さんは、世代によっては生まれる前の事件でしょう。「法定の除外事由がないのに」。この言葉が耳に残り、後年、私が、民事裁判と刑事裁判の主張立証の構造の差異に気づくきっかけにもなりました。
ここの「法定」は、字義のとおり、法律(あるいは法令)が定めるところの、という意味です。外国為替に関する法令が細かく外国からの支払を適法にする場合を定めているが、そのどれにも当たらず隠れて受け取ったお金である、と述べたいわけですね。この形式犯で逮捕されましたが、やがて検察は、証拠を固め、その支払が賄賂に当たるとして、被疑者を受託収賄罪で訴追します。こうして、内閣総理大臣の職務権限という問題が、憲法、刑法の分野で現実に扱われる論点となりました。
「法定」には、異なる語感もあります。たとえば法定利率という際の「法定」。たしかに、法律が定める利率であるにはちがいないけれども、それに加え、当事者が別な合意をしなければ、という意味が加わります。他人にお金を貸す際、利息は年4パーセントと約束してよいし、年2パーセントと定めてもよい。もし約束をしなかったならば、民法404条が「法定」するところにより決まります、という意味です。
連載の第11回においては、法定担保というものが話題となります。その法定は、どのような意味でしょうか。それも、第11回において明らかにされます。
連載第11回の「例題」
【例題1】
Aは、動産甲を修理する仕事を所有者のBから注文され、その引渡しを受けた。
(1) 修理を了したAがBの住所へ持参する途上、Cが動産甲を奪った。Aは、Cに対し動産甲の返還を請求することができるか。
(2) 修理を了したAがBの住所へ持参する途上、動産甲を遺失した。Aは、動産甲を拾ったCに対し動産甲の返還を請求することができるか。
【例題2】
Aは、Bに対し金銭を貸し渡し、その担保として、Bが所有する動産甲について質権の設定を受け、その引渡しを受けた。
(1) Cが動産甲を奪った。Aは、Cに対し動産甲の返還を請求することができるか。
(2) Aが携行して旅をしていた途上、動産甲を遺失した。Aは、動産甲を拾ったCに対し動産甲の返還を請求することができるか。
【例題3】
Aは、甲建物を修理する仕事を所有者のBから注文され、修理を了した。これに伴い、Aは、Bに対し報酬債権を取得し、また、これを担保する不動産保存の先取特権が甲建物に生じた。その時、Cが甲建物に抵当権を有しており、その登記がされていた。また、修理がされてから1年後にDが甲建物に抵当権を取得し、その登記がされた。
Aは、C・Dに対し、甲建物について優先弁済の権利を主張することができるか。
【例題4】
Aは、Bに対し金銭を貸し渡し、その担保として、Bが所有する甲建物について抵当権の設定を受けた。
(1) Bが甲建物を取り壊そうとしている場合のA・B間の法律関係を検討せよ。
(2) Cが甲建物を取り壊そうとしている場合のA・B・C間の法律関係を検討せよ。
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1958年生まれ。亜細亜大学法学部専任講師、中央大学法学部助教授を経て現職。
著書に、『不動産登記法 第2版』(商事法務、2020年)、『ストーリーに学ぶ 所有者不明土地の論点』(商事法務、2018年)、『詳解 改正民法』(共著、商事法務、2018年)、『新・判例ハンドブック1、2』(日本評論社、2018年)、『物権法 第5版』(日本評論社、2012年)など。