(第6回)くすりの形

こころのくすり、くすりのこころ(渡邉博幸)| 2021.03.10
「いつまでくすりを飲まないといけないの?」「副作用が心配です」「今のくすりが合わない気がする……」。精神科のくすりを服用する際、当事者や家族は疑問や不安を抱くことがあるでしょう。くすり以外の方法を用いることも大切です。医療者が一方的に治療を提供するのではなく、当事者・家族・支援者が見通しを共有し、よりよい治療につながる工夫を考えます。

(毎月上旬更新予定)

こころや脳に働くくすりには、たくさんの投与方法があります。大きく分けると、①口から飲んで胃腸や肝臓といった消化器官を通って肝臓で処理され、全身の血液に回って脳神経に到達するタイプと、②消化器官を経由せず、直接血管内に入って、脳神経に達するタイプの2つがあります。

消化器官を経由するタイプのくすり

消化器官を経由するタイプのくすりの形(「剤形」と言います)としては、みなさんよくご存知の錠剤が代表的です。その他にも、カプセルや口腔内崩壊錠、粉薬(散剤、細粒、顆粒)、ドライシロップ、液剤などがあります。多くのくすりは錠剤を基本として、他の剤形が後から登場してくるのですが、近年では最初から特殊な剤形で発売されるものも出てきています。

このタイプは、口からくすりを飲み込んで、喉、食道、胃、小腸を経て、肝臓に入って処理され、血液中に拡がって、脳に到達します。小腸からの吸収、そして肝臓での薬物代謝を経てはじめて中枢神経系に働くのです。ですから、飲んでから効き目が出るまでに1~2時間ぐらいのタイムラグがあります。

よく、「飲んでも効き目が出ない」と言って焦って病院に電話をかけてくる方がいらっしゃるのですが、聞いてみると「15分前に飲みました」とお答えになったりします。「そのくらいの時間では効き目は出ませんよ」と言って、前述の体内でのくすりの行き先を説明すると納得されます。逆に、「飲んだらすぐ眠れました」とか、「飲むと5分後には不安がとれました」とおっしゃる方もいますが、この場合は「くすりを飲んだ」ということ自体が緊張緩和につながっているようです。これはプラセボ(プラシーボ)効果ともいえるでしょうが、多くの場合は、「つらい状態を服薬によってやり過ごせた、持ちこたえられた」という成功体験が先行しないと、うまくいかない印象をもっています。

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渡邉博幸(わたなべ・ひろゆき)
千葉市にある都市型の精神科専門病院である木村病院で働いています。とくに専門をもたずにいろいろな患者さんを診ていますが、最近は産後メンタル不調の方や若い方に多くかかわっています。薬のこと、こころのこと、暮らしのこと、さまざまな困りごとに、いろいろなスタッフと協力し試行錯誤しながら答えを探す毎日です。著書:『統合失調症治療イラストレイテッド』(星和書店)ほか。