台湾に国際法の保護は及ぶか(伊藤一頼)

法律時評(法律時報)| 2022.02.09
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」94巻2号(2022年2月号)に掲載されているものです。◆

1 緊張の高まり

台湾海峡危機——より具体的に言えば中華人民共和国による台湾への軍事侵攻の問題——をめぐる議論が国内外で活発化している。もとより台湾統一は同国の建国以来の目標であり、これまでも台湾海峡における中国軍の活動が緊張を高めたことはあった。しかし、ポスト・冷戦の世界が自由主義と権威主義の対立の構図を深めるなかで、トランプ政権下の米国は閣僚級の訪台や武器輸出の強化を進め、バイデン政権も2021年12月に立ち上げた「民主主義サミット」に台湾を招待するなど、西太平洋における安全保障と価値観の要衝として台湾への関与を強めている。これに対し中国は、2021年7月の共産党創立100周年記念式典などの場で習近平国家主席が台湾統一への決意を改めて強調し、軍事面でも台湾・米国側への牽制のレベルを引き上げる行動を示している。日本もこうした情勢と無縁ではなく、2021年4月に行われた日米首脳会談の共同声明では、日中国交正常化以来初めて台湾問題への言及がなされた。

言うまでもなく、関係国は軍事衝突を回避しうるようあらゆる可能性と方策を探るべきであり、初めから「台湾有事」を語るような態度は避けねばならない。とはいえ、万一の事態を想定し、それに関する法的な評価を明確にしておくことは、紛争の発生を防止するうえで役に立つ場合もあろう。特に、台湾が通常の意味での「国家」ではないとすると(むしろ中国の一部であるとする見方もある)、そこに中国が軍事侵攻を行ったとしても、それが国際法的に違法だと言えるのか直ちには明らかでない面がある。結論を予断するわけではないが、もし台湾が国際法上保護されるのだとすれば、それはどのような根拠によるものなのだろうか。また、米国や日本が台湾の防衛を支援することは、中国に対する内政干渉にならないのだろうか。

このコンテンツを閲覧するにはログインが必要です。→ . 会員登録(無料)はお済みですか? 会員について