裁判官の仕事の魅力:自由な議論に惹かれて(田中昭行)(特集:法学部発、活躍の場――法学を活かした仕事)
◆この記事は「法学セミナー」806号(2022年3月号)に掲載されているものです。◆
特集:法学部発、活躍の場――法学を活かした仕事
いま、法学を学んでいるみなさんは、将来どういった進路を考えていますか。
いろいろな選択肢があるなか、これまで培ってきた法学の知識や考え方は、この先、どんな仕事でもきっと役に立ちます。
本特集では、法学部で学んだ先輩たちが、どのような志を持って進路を選択し、その後の道を歩んでいるのかを紹介します。
法学を活かした場で、みなさんも活躍してみませんか。
――編集部
1 はじめに
裁判官に任官して16年が経ちました。初任地として札幌地裁に配属され、その後、名古屋家裁、山形家地裁米沢支部、大阪地裁、福岡高裁那覇支部を経て、現在東京地裁に勤務しています。私の経験を交えながら、裁判官の仕事の魅力を少しでもお伝えできればと思います。
2 法学部生から裁判官になるまで
私は法学部に進学したものの、初めから裁判官はもちろん、法曹を志すことを決めていたわけではありません。入学当初は法律の勉強に興味を持てず、「大学では何をして過ごそう」とぼんやりしていました。しかし、父親から「ゼミにはちゃんと入れ」と言われていたので、大学1年の後期に、弁護士の先生に直接教えを受けられるゼミに入りました。具体的な事例を題材に仲間と議論し、検討を深めるのは面白く、私に合っていたのだと思います。徐々に法律の勉強に興味を持つようになり、大学3年から司法試験の勉強を始めました。その後も正規カリキュラムのゼミだけでなく、仲間と自主ゼミを組んだりしていたので、学生時代、ゼミの活動には力を入れていたと思います。そのような成果もあってか、運よく2回目の受験で司法試験に合格することができました。
司法試験に合格後も、裁判官や裁判所関係者に知り合いはいなかったので、裁判官に対しては、「法曹三者で一番真面目な人がなる仕事」といったステレオタイプなイメージしかなく、将来は弁護士になろうと考えていました。しかし、司法修習で初めて生身の裁判官に接し、私のイメージは大きく変わります。司法研修所の裁判官教官は、高度な内容を扱いながら、常にユーモアを忘れず、講義等を離れると、修習生とのスポーツ大会や飲み会などのイベントにも積極的に参加して、個々の修習生の自由な発想をとても大切にしてくれました。実務修習の京都地裁では、裁判官は事件の解決について活発に議論をしながら、裁判官室には幅広い分野の話題や笑いが絶えず、書記官や事務官とも1つのチームになって、事件の適正処理に全力を尽くしていました。司法修習で初めて接した裁判官は、仕事に真面目に打ち込むだけでなく、人間的な魅力に溢れており、裁判所の自由な議論を大切にする雰囲気も心地良く、私に強烈な印象を与えてくれました。
法曹三者の仕事はどれも魅力的で、進路は悩みましたが、「本当に自分がしたいと思える仕事は何か」を考えたとき、私は当事者の立場の制約を受けず、自由闊達な議論を通じて、自分が最も妥当と信じる結論を突き詰められる裁判官の仕事に魅力を感じ、任官の道を選びました。今でもこの時に感じた魅力に変わるところはなく、自分の選択が誤っていたと思うことはありません。