「社会のルール」と「法」(飯田高)(特集:法学入門2022)
◆この記事は「法学セミナー」807号(2022年4月号)に掲載されているものです。◆
特集:法学入門2022
本特集では、4月から法学を学び始める方に、自分たちがこれからどのような学問を学ぶのか、また、法学にはどのような思考が必要なのかをお伝えします。
全体構成のうち、前半では、現代社会の関心事を題材として、社会に対する法学という学問の位置づけを考察します。
後半では、法解釈学および憲法・民法・刑法の思考方法を紹介します。――編集部
1 はじめに――消えゆくルールと生まれゆくルール
教育機関は奇妙なルールの宝庫である。筆者の妹が通っていた中学校では、「生徒はおかっぱにするかおさげにするかを入学時に決め、在学中はそれを変えてはいけない」旨の校則があった。この校則は現在では撤廃されているそうだが、数十年前は類似のルールを設けていた学校は珍しくなく、特に男子生徒に対して丸刈りを強制していた学校は相当数あった。
おかっぱ・おさげルールは、厳格に遵守させることがもともと無理という点でも奇妙だった。髪を切ってしまえば教員は「伸ばせ」とは言えないので、結局「切ったもん勝ち」となる。おかっぱからおさげへの変更はできないが、逆はできてしまう。実際、途中でおかっぱに変える生徒は多かったのだという。
ともかく、特定の髪型を強制する校則はだんだんと消滅しつつある。近年ではツーブロックの禁止や地毛証明書の提出などが問題となっているが、よほどの出来事がない限り、このような校則はいずれ消えていくだろう。
その一方で、新しいルールが日々生まれている。2020年4月、一部の大学がオンライン授業を開始し、その他の大学だけでなく、小学校・中学校・高校も授業のオンライン化を手探りで進めていった。手探りだったのは、受講する側も同じである。今までにない経験に遭遇した教員や学生・生徒は、オンライン化に対応するための指針を需要する。そうした指針を供給する人たちもまた出現し、オンライン授業に関するローカルルールがいろいろな場所でできあがっていった。学校や教育委員会は、おそらく他の事例を参考にしながら、それぞれにルールを作って公表している。
もちろん参考になるルールは多いが、ここまでルール化しなくてもよいのでは、と思えるものも中にはある。とはいえ、そういうルールを必要とする事情があったことも推測される。画面に映る表情の見せ方やバーチャル背景の指定など、教育現場の問題や危惧にはいろいろなものがあるのだと改めて感じる。