(第9回)朝鮮に対する植民地支配(1)(加藤圭木)

おさらい日本の近現代史―「日本」と東アジアの関係を読み解くために| 2022.04.27
日本の近代・現代とはどのようなものだったのでしょうか。
私たちが今、日々ニュースで接する日本の社会状況や外交政策を、そのような歴史的視点で捉えると、いろいろなものが見えてきます。
この連載では、「日本」と東アジア諸国との関係を中心に、各時代の象徴的な事件などを取り上げ、さまざまな資料の分析はもちろん、過去の事実を多面的に捉えようとする歴史研究の蓄積をふまえて解説していただきます。
現在の日本を作り上げた日本の近現代史を、もう一度おさらいしてみませんか。

(毎月下旬更新予定)

1 新一万円札の「顔」・渋沢栄一

2024年に発行開始となる新1万円札の「顔」に選ばれたことで、渋沢栄一(1849~1931年)が注目されている。渋沢は、第一国立銀行、王子製紙、日本郵船、日本鉄道などの創立に参画した実業家で、「日本資本主義の父」と呼ばれる。新紙幣の発行に先立ち、昨年には、渋沢を主人公とするNHK大河ドラマ『青天を衝け』が放映されたので、視聴した読者も少なくないだろう。

財務省によれば、新1万円札の肖像として渋沢を選定した理由は、「新たな産業の育成」といった面から「日本の近代化をリードし、大きく貢献した」ためだという(財務省ウェブサイト、2022/03/18最終閲覧)。

ドラマが放映されたり、紙幣の肖像に選定されたりしたことによって、日本の市民のあいだでもこのような認識がこれまで以上に拡がっている。

一方、隣国の韓国では渋沢が新紙幣の肖像とされることについて、批判の声が上がっている。渋沢が朝鮮侵略を担った中心的な人物であるというのである。

このような韓国側からの批判に対して、日本社会では少なからず反発が見られた。「日本のお札に誰の肖像を使うのかは日本人が決めること」、「他国のお札の肖像に文句をつけることは理解できない」といったような声が上がった。

現在、日本は空前のK-POP・韓国文化ブームであるが、紙幣の肖像に限らず、これまでにも似たような葛藤が繰り返し生じてきた。たとえば、韓国の芸能人が日本の植民地支配の歴史に対して批判的な発言をSNSでしたところ、日本側で「反日だ!」として騒ぎになったことがある。韓国文化好きの日本人にとっては、モヤモヤする話題ではないだろうか。中には「推しが「反日」かもしれない」と悩んでいるという人もいるかもしれない(一橋大学社会学部加藤圭木ゼミナール編『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』大月書店、2021年)。

以上のような問題を考えていくためには、歴史の事実を知ることが重要である。今回は、日本の朝鮮植民地支配について、主として植民地化過程とそれに伴う経済侵略、さらに植民地支配の体制について見ていくことにする(朝鮮王朝は1897年に大韓帝国と国号を変えた。その後、1910年に「韓国併合」により大韓帝国は廃滅させられ、朝鮮と呼称されるようになった。本稿では、便宜上、時期にかかわらず朝鮮と呼称する)。

このコンテンツを閲覧するにはログインが必要です。→ . 会員登録(無料)はお済みですか? 会員について

加藤圭木(かとう・けいき)
一橋大学大学院社会学研究科准教授、専門は朝鮮近現代史・日朝関係史。
主著に、『紙に描いた「日の丸」─足下から見る朝鮮支配』(岩波書店、2021年)、『植民地期朝鮮の地域変容─日本の大陸進出と咸鏡北道』(吉川弘文館、2017年)、『だれが日韓「対立」をつくったのか─徴用工、「慰安婦」、そしてメディア』(共編、大月書店、2019年)、一橋大学社会学部加藤圭木ゼミナール編『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』(監修、大月書店、2021年)、東京歴史科学研究会編『歴史を学ぶ人々のために─現在をどう生きるか』(共著、岩波書店、2017年)など。