(第6回)「武士道」に学び、乗り越える

日本のリーダーはなぜ決められないのか――経営に活かす精神分析(堀有伸)| 2022.06.22
経営における意思決定に、深層心理はどのような影響を与えているでしょうか。この連載では、日本の文化や慣習が組織のリーダーの「決断」にどのような影響を与えているかを、MBAで学んだ精神科医が、精神分析理論等を参照しながら明らかにしていきます。

(毎月下旬更新予定)

リーダーシップ教育と『武士道』

日本のビジネスパーソンに対するリーダーシップ教育では、しばしば新渡戸稲造の『武士道』1)が参照される。新渡戸稲造は農政学者・教育者として知られる人物で、「少年よ大志を抱け」で有名なクラーク博士のいた札幌農学校の教授となった後の1899年、アメリカ滞在中に英語で『武士道』を出版した。日清・日露戦争を経験して日本が国際的な存在感を増していった時期に、世界に対して日本人の価値観や倫理観を説明し、多くの共感を得ることに成功した著作である。アメリカの大統領であったルーズベルトは、この本を読んで感動し、30冊購入して側近に読ませたと伝えられている。新渡戸は東京大学教授や東京女子大学初代学長を務めた後、1920年に国際連盟事務次長となり、国際平和に尽力した。

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脚注   [ + ]

1. 新渡戸稲造(須知徳平訳)『武士道』講談社インターナショナル、1998年

堀 有伸(ほり・ありのぶ)

精神科医。1997年に東京大学医学部卒業後、都内および近郊の病院に勤務しながら現象学的な精神病理学や精神分析学について学んだ。2011年の東日本大震災と原発事故を機に福島県南相馬市に移住し、震災で一時閉鎖された精神科病院の再開に協力した。2016年、同市内に「ほりメンタルクリニック」を開業。開業医となった後にグロービス経営大学院で学ぶ。著書に『日本的ナルシシズムの罪』(新潮新書)、『荒野の精神医学』(遠見書房)。